読書感想:この恋は元カノの提供でお送りします。

 

 さて、昨今のラノベ界の中のラブコメ系作品の世界の中で大学生と言う年代を舞台にした作品は徐々に増え始めている訳であるが、画面の前の読者の皆様は大学生、というのはラブコメの王道である高校生、とは何が違うと思われるであろうか。自由さ、と言われれば確かにそうである。窮屈な時間割に意識しなければ縛られぬのが大学生である。だが、それ以外にも違うものがある。

 

 

それは「ラブコメとしての光り方」、と言えるのかもしれない。高校生のラブコメは瑞々しい、その時に全力投球である。だが、大学生は違う。少しは経験を積み清濁を見始める年頃だからこそ、綺麗なだけではない。一度切れた絆は、高校生では繋ぎ難いとしても、大学生は何となく繋いでおけるもの。そんな独特の、焙煎された感じのするのがこの作品なのである。

 

特に特筆すべき所もない、ごく普通の大学二年生、創(表紙右)。創とは別の大学に進学した、かつて誰もが憧れた美少女、真波(表紙左)。チャットアプリという、電波越しに再会し、顔も知らぬままに交流し。そんな二人は、また出会う。

 

どこかぎこちなくも、気安く遠慮ない二人の関係。それは「元恋人」。しかしそれは偽装の関係。かつて日々関心を向けられる事に辟易した真波から提案し、高校卒業と共に自然消滅した関係である。

 

出会い、喧々諤々としながらも気安く言葉を交わし。その最中に創が漏らした今の恋。高校時代からの友人であり、かつて一度フラれた同級生、優花への片思い。その片思いを成就させる為、そしてあの日の借りを返す為。真波は新たに自分が創の恋愛スキルを上げると言う事を提案し、彼女を臨時コーチとして創は恋を始める事になる。

 

ご飯を食べる店の選び方に始まり、家に招いた時の対処法と招き入れる為の準備まで。「元カノ」らしい遠慮なさで、彼の事をそれなりに知っているからこその視線で。真波のアドバイスを元に、準備を進めていく創。そんな彼は、所属するサークルの先輩である梨奈にも見守られながら、今度こそはともがいていく。

 

 それは未練か、それとも割り切れぬ執着か。しかし勝負をかけたデートで、優花は二度目の断りを創に告げる。こんな自分を好いてくれるのは嬉しい、それは本当。けれど恋愛すると、きっと自分の中の創が変わってしまうから、と。変えたくないから、ロクでもないと自嘲しながら。それでも繋がり続ける事を選ぶのは、それもまた「未練」なのか。

 

「私の時間を、アンタにあげるわ」

 

そんな彼を、どこか揶揄う様に真波は慰め。高校時代の約束を持ち出し、今度は自分が傍にいてあげると告げる。その慰めは確かに創に効く。何だかんだと真波といれないのは寂しかったから。

 

 どこか深煎りされた煤けた感じのするのは、気のせいではないのかもしれぬ。けれどこれが、オトナであるという事。綺麗なだけでは、甘いだけではない恋をすると言う事。

 

だからこそ、何処かリアルで真っ直ぐで。故にこの作品は心をラブコメのナイフで突き刺してくる。そして一度でも突き刺されたら、きっと心に風穴を開けられるのかもしれない。そんな独特の面白さがある作品なのである。

 

甘いだけのラブコメに飽きた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

この恋は元カノの提供でお送りします。 (角川スニーカー文庫) | 御宮 ゆう, Re岳 |本 | 通販 | Amazon