読書感想:わたしの百合も、営業だと思った?

 

 さて、声優というのはアニメに声を吹き込む方々であり、キャラクターに命を入れる人達であるが、そんな人達が生き戦う世界、声優界を題材としたラノベを画面の前の読者の皆様は読まれた事はあるであろうか。華々しく見えて、実際の所声優の世界とは椅子の取り合い。常にだれかが誰かを蹴落とそうとしている、弱肉強食の世界なのである。

 

 

といった描かれ方をする事も多い声優界であるが、この作品もまたそんな世界を題材にした作品である。そして、そんな世界で咲く百合の花、ガルコメを描く作品なのである。

 

「みんなが、すずみたいに思えればいいんだけどね」

 

声優事務所、「イアーポ」に所属する若手女性声優、すずね(表紙左)。所謂「本百合」、簡単に言うとガルコメの主人公的なタイプな彼女は半年前に卒業し表舞台から姿を消した推しのアイドル、かりん(表紙右)が後輩として事務所に入ってくると言う知らせに舞い上がってしまい、先輩として面倒を見る事を決意する。持って生まれたアドバンテージの分、疎まれやすいであろう彼女を案じて。

 

関わってみて知るのは、彼女は本来は声優志望であり、秘かにトレーニングをしていたその声は、外画方面であれば活躍できる素質を持っているという事。かりんの方もまた、すずねを先輩として慕い。気が付けばもう彼女は「推し」ではないのに、何故かまだ「推している」という自分が発生していく。

 

更にはかりん本人にも、自分が元ファンであった事がバレてしまったかと思えば彼女のかつての仲間、栞との邂逅により実はかりんの方もすずねを推しており、彼女と一緒に声優をやりたくて事務所に入ってきたという事を知る。

 

途端に近づいていく恋の感情、かつての仲間同士の語らいに、何処か推せる、萌えとはまた違う感情が浮かんで言う自分の心。その気持ちに向き合う間もなく、かりんにとって試練の時が訪れる。身内の声優による、スキャンダルへの誘導。そして誤解が招いてしまった炎上案件、というものが。

 

それもまた仕方のない事かもしれない。声優の世界は、正に熾烈な戦争。そもオーディションに受からねば仕事もないし、事務所から推されなければ、自身の命綱が無くなるようなもの。そんな世界にかりんのような、花があって実力もある者が飛び込んできてしまえば。それは周囲にとって排除の対象となっても仕方のない事である。

 

「わたしは好きだから」

 

そして一度火がついてしまったものは、当然簡単には消えぬ。悪意あるコメントが押し寄せかりんを押し潰そうとする。そこから救い上げる為に、すずねが放ったのは。世界で一番大好きな人、その人に一番の味方がいるという事の意思表示。あふれ出る本心からの告白だったのである。

 

ガルコメだけではなくシリアスも描いていくからこそ、想像を掻き立てられる百合が心をくすぐる今作品。ガルコメ好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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