読書感想:玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら

 

 さて、どこぞのアイドル様の瞳には星が輝いていて、どこぞのソシャゲの、三月から始まるメインストーリー新章で主役を張る女の子の瞳にも、星が輝いている訳であるが。星が瞳に輝いていると、その目に引き寄せられるかもしれないし、元気そう、という印象を抱かれるかもしれない。そんな瞳が好き、という方もおられるかもしれないし嫌い、苦手という方もおられるかもしれない。その趣味は人それぞれであるので、明言は避けたい訳であるが。

 

 

しかし瞳に星がない、どころか光がない、というキャラも時々いるであろう。そんなキャラを見た時、画面の前の読者の皆様はどう思われるだろうか。病んでるのか、と心配したりちょっと怖い、という思いを抱いたりするであろうか。そんな目の死んでいる、光のない女の子が今作品のヒロイン、ヒトリ(表紙)である。

 

彼女の住んでいるマンション、そのお隣さんである主人公、リヒト。家族が父親の出張に全員ついて行ってしまったため、一人暮らしを絶賛満喫中、しかし家事の面倒くささで家事は疎かになっている彼。そんなある日、雨の降る日に。家のドアの前で座り込んでいた彼女を見つけ、聞いてみれば鍵は持っているも、お部屋の中に入りたくない、帰りたくないと彼女はいい。

 

「うちに寄っていきませんか?」

 

一先ず彼女を放っておけないと家に上げたら、連れ込まれたのはそういうことかとベッドに横になって誘ってきて。

 

「―――バカ言うな」

 

無論そんな事はリヒトは望んでおらず。お風呂に押し込んで着替えを出したら、入らないと言う理由でスウェットを裸の上から着て出てきて。そのまま何をするでもなく、沈黙が流れる中。何故か彼女は泣き出してしまい、受け止める事となる。

 

「せめてこれぐらいはさせてくれない?」

 

「好きにすれば」

 

そのまま、二人の交流は終わることはなく。 借りを作りたくないから、と不器用ながらに弁当を作ってきたりとお返ししてくれる彼女と、返されっぱなしも嫌だからと、不器用にでも近づこうとする彼。肝心な一番奥には踏み込まず、突き放さそうとする言動の中に心の扉の開きを感じて。家にいたくない彼女との交流する時間は、少しずつ増えていく。

 

だけど、そんな何気なさが。不器用な優しさが、ヒトリには突き刺さるものだった。気が付けば執着し依存していた、彼と言う存在に。ただ傍に居てくれる彼を無くしたくない、と。引っ越しの話が持ち上がった彼を止めようと、普通の女の子としてデートに誘おうとする。

 

が、しかし。ヒトリには無理だった。満たすものがない空っぽ、虚構が外面を取り繕おうとしても内面は変わらない。 空っぽなものが、満たせるわけがない。拗れてしまいすれ違って、家にも来なくなって。最後に向き合おうとしたリヒトは、ヒトリの母親から彼女が家に帰っていない事を知らされ、雨の中に探しに行く。

 

「一緒に居るよ。これからも、ずっと」

 

雨の中、見付けた彼女はまるで生気のない人形、風の中に揺らめく蠟燭のよう。その姿から、無言のうちに。刻まれるように理解させられる。最早彼女は、リヒトなしではいられない。既に空っぽな中身は彼によって満たされている。だからもう、彼が居なければ生きていけない、心臓の鼓動一つすら打てない。その姿は無言の脅迫。その姿を見、リヒトは当然のように選び取る。これからも一緒に居る道を。

 

ダウナーな彼女が醸し出す、どこかセピア色めいた空気。その中に恋の彩を差す事で、依存すら伴う重い愛が目覚めていく。正に心を掻きむしり、忘れないようにと傷を刻んでくるようなこの作品。しっとりと重力を放ち引き込んでくる、重い愛が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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