さて、画面の前の読者の皆様に突然であるがお聴きしてみたい。Ｖの者でも、ゲームでも、それこそ現実のアイドルでも。皆様は何か一つの存在を大切に、推された事はあるであろうか。自分の何もかもを捧げる程に熱中し、自分の全部の力を掛けられた事はあるであろうか。そしてそんな存在が、何らかの要因で無くなってしまうという、喪失の経験をされた事はあるであろうか。
VTuberのアイドルグループ、「星ヶ丘ハイスクール」所属のVTuber、夢叶乃亜（表紙中央）。実質チャンネル登録者数百万人を目標に、ひたむきに活動していた彼女。そう、「活動していた」、過去形である。初めての単独ライブの日、「特定班」と呼ばれる者達によってその魂の醜態を炙り出され。人気絶頂の中、炎上を迎えてしまったのである。
「おれはあの夜に死んだ・・・・・・」
その炎は、多くのファン達の心もまた焼いていた。ファンの中でも有名な少年、業。最後まで希望を信じ縋りつくも、運営の資本主義によって、最後の希望を奪われて。一年後、高校を休学した彼は、「燃えよ、ぶい！」という炎上を取り扱うブログを運営しながら暮らしていた。彼にとって嫌いな季節である夏。そこで訪れるのは新たな出会い。かつての推し仲間である「ミーナ」こと、海那。人気イラストレーターのもとで「鏡モア」としてデビューした少女である。
海那は今、人気イラストレーターの皮を被り裏で下種な本性を見せていた、ママであるイラストレーターに困らされていた。お返しもして、円満に引退するために。海那は業に自分を炎上させてほしいと依頼し。若干嫌々ながらも、彼女の中にある覚悟を感じ。業は中国の友人に依頼し、人気絶頂の中で突き落とすと言う形で、決着をつける。
「あんたが望んだことだ」
予定通り訪れた、鏡モアという存在の終焉。だが、悪い事ばかりではなかった。愛してくれた人達も確かにいた。その縁は、確かに繋がり。海那と業の縁は続き、新たな炎上案件が持ち込まれていく。
海那の親友である絢音、彼女が魂となって生きる「彩小路ねいこ」。政治的な発言上等、どこかまるで猫のように、本心を隠す彼女。
乃亜の生まれ変わりではないかと噂されている、老舗グループに所属する「六翼なこる」。どこかふわふわとした声で話す、その裏に求められて押し付けられる偶像を抱えている彼女。
ある時は、ファンの本心に向き合わせ、珍しく擁護する形で。またある時は、炎上させている黒幕、かつての仲間の元に辿り着き。共に死なんとする気迫で、終わらせようとする形で。
炎上という商法を取り扱い、どこか冷ややかに見える彼。その本心に、海那は迫っていく。その根底、それは「愛」。どこまで傷つけられても失えなかった、くすぶり続けるもの。だからこそ、彼は推しを守ろうとした。もう会えぬと知り嘆きながらも。その死から始まった、連鎖する火事をプロデュースし。彼女の痕跡を焼き尽くす火へ変える事で、その死を守ろうとしていたのだ。
それはまるで、終わらぬ追悼式。哀しすぎる鼬ごっこ。その果てに彼に救いはなく、どこまでいっても、闇の中。
「わたしが、あなたを見つけてみせます」
その闇の中、飛び込んできた海那。彼を救い、救いようのない輪廻を終わらせるべく。彼女は再び、今度は自分の意思で新たなＶを身に纏う。あまりに未熟、あまりに稚拙。だけど、確かにそこに在ったのはあの日の輝き。業達が推した彼女の輝きは今、海那に受け継がれた。その事実に気付いた時、業は確かに許された。一歩踏み出す後押しを貰えたのである。
この作品は、人の悪意に満ちている。生々しくて痛々しい悪意がこれでもかと満ちている。だが、そんな中。その悪意に立ち向かう者に救われた誰かがいて、その救いが彼の救いに繋がって。そんな輪廻が描かれているのである。
正に唯一無二、しかしこれだけは言ってしまおう。この作品は正に今の時代、生まれるべきお話であり。この時代ゆえの面白さに溢れているのだと。
何処にもない面白さ、目撃してみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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