読書感想:SICK 2 ―感染性アクアリウム―

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:SICK ―私のための怪物― - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれている読者様がこの巻の感想を開いているという事を前提に、この巻の感想を書いていく訳であるが。前巻を読まれた読者様はもう御存じであろう。叶音にとって最も大切な存在である逸流は、もうとっくに死んでおりその姿を模したフォビアに縋り、彼女だけの優しい嘘の世界で生きている、という事は。正に誰もが歪んで壊れて救いはない、と前巻で私は言った。どうもそれは彼女に限った話ではないらしい、というのが判明するのが今巻である。

 

 

今巻で書かれる歪みの持ち主、それは昇利。皆様も疑問に思われた事はないであろうか。霊能探偵を名乗る彼、そもそも叶音の縁者でも無いようだが、何故彼女の保護者をしているのか。霊感なんて全くないのに、何故霊能探偵を名乗っているのか? その辺りが描かれるのも今巻である。

 

ここ最近、名が出始めた謎の絵描き。だがその絵描きが書いた絵を見た者は、海に呼ばれたと言い必ず溺死で自殺する。どう考えても怪異絡みの事件、そこに警察として立ち向かうのははぐれ者の女刑事、咲希。その事件現場に現れた昇利と何か因縁のある様子を見せ、しかし何故か彼の捜査を手助けし。彼は魅虎という馴染のタトゥーアーティストから、海園遊雨という作者の名前を聞き出す。

 

だが、事態はのんびりとした捜査を許してはくれなかった。手掛かりを求めゾーンへと向かった叶音と逸流が辿り着いたのは、大海原の中に巨大な樹が直立し、見た事もない魚が泳いでいるという光景を眺めるアクアリウム。個人のゾーンとしては、どう考えても広大すぎるという疑問も束の間、咲希の後輩刑事二人がゾーンに囚われ。更には海園遊雨の元へ向かった昇利がゾーンに巻き込まれてしまい。彼と囚われた人を逃がす為、叶音がゾーンに取り残されてしまったのである。

 

「ねえ、しょーりさん―――その傷口、僕に抉らせてちょーだい?」

 

逸流もまた放り出され、縁を切られた事でもう一度ゾーンに飛び込む事も出来ず。その中で始まる、海園遊雨による公開作品制作の生放送。もはや一刻の猶予もない、悪魔的に嗤う逸流が提案した、昇利から繋がる縁を辿ると言う方法。だがそれは、彼に隠された歪みを暴き出すものであった。

 

逸流により抉られ、暴き出されるのは何か。それは昇利の歪み、欠落。そう、彼もまた壊れている。「怒り」という歪みで。かつて咲希と共に刑事であった頃、先輩刑事の娘が宗教団体に囚われ惨殺されたという悪夢。そこから繋がる、怒りが生み出した歪み。叶音とはまた違った歪みが、再びゾーンへと誘っていく。

 

正義では届かぬものがあると知り、その怒りのままに壊してしまいたいと望み。その中で、やっと救えた只一人。その彼女を救うため、昇利は己の正義を貫き世界をぶち壊す事を選ぶ。

 

その果てに明かされるのは、海園遊雨という画家の真実。彼を必死に支え続けていた姉、鞠華にとって残酷すぎるもの。彼、という存在はもういない。その全ては彼を偽った逸流の同類、深層のフォビアである鯨が為していたという事。

 

「そうね。何もかも ぶっ壊すくらい、好き放題やっちゃいましょうか」

 

その全て、ぶっ壊すと。眠りから復帰し、逸流に操られる叶音が獰猛に嗤い。彼女を介し、逸流は人を愛するフォビアとしての力を見せつけ。鯨と話をつけ、撤退させる事に結果を落とし込む。

 

「僕は今度こそ、奴らをこの世界から葬り去るつもりだ」

 

しかしこれも、また始まりに過ぎぬ。昇利と叶音、そして逸流にとっての因縁の組織、「解洛の錠痕」はまだ何処かで息づいている。これ以上扉を開けば不味い事になる、と鯨は警告する。そしてあのツヅリが、再び表舞台に姿を現す。

 

故にこれだけは言える。悪夢はまだ終わらない、それどころかもっと酷くなるのだ、と。

 

よりダークに、更に深みに嵌っていく今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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