読書感想:SICK ―私のための怪物―

 

 さて、世の中には知らなくていい真実と言う物が存在する事があり、不都合な真実と言う物は時に残酷であり毒であったりする。と言うのはともかく、何が言いたいのかと言うとであるが。つまりは「触らぬ神に祟りなし」、という事なのである。

 

 

ではこの作品においてはその話の何が関係するのかというと。その「不都合な真実」が舞台の根底なのである。

 

「あなたは絶対に、ひとりぼっちにだけはならないのよ」

 

幼き日の約束、それが果たされると―――

 

人間一人一人の精神を反映した、各自唯一の精神世界、「ゾーン」。その世界に別の次元から侵攻し巣食い、悪夢と言う形で世界の主を蝕み様々な恐怖症を齎す概念生命体、フォビア。霊能探偵社の主、昇利から仕事をあっせんされ精神世界へと潜りフォビアを殺す仕事をこなす少女、叶音(表紙左)とパートナーである少年、逸流(表紙右)。博物館のようなゾーンを二人で共有し、フォビアが遺した存在の結晶を逸流が「幽骸」と呼ばれる武器に加工し。狩りを続ける中、モデルを務める星那と彼女のサポートを務める文乃が、星那が不可解な視線恐怖症を患ったという事を相談に訪れる。

 

 それは簡単な仕事であるはずだった。だが、星那のゾーンの中に現れた恐怖を育てる配信者、ツヅリはまるで劇を紡ぐかのように不可解な一言を放ち姿を消し。まだ事態は終わっていないと言わんばかりに、再び星那は恐怖に襲われ恐慌状態に陥る。

 

「叶音。貴方は何かを忘れていますね?」

 

再び潜った彼女のゾーン。そこに現れたツヅリは一瞬の隙を突き叶音を捕らえ、その本質に手をかける。彼女が無意識のうちに封じ込めている闇、自分を壊してしまう程の「罪」を容赦なく暴き出す。

 

「夢より大事な現実なんて、どこにも存在しないのよ」

 

逸流の本気の怒りを前に撤退を選んだツヅリは招待状を彼に託し。招かれて訪れた新たなゾーン。2人がツヅリと相対する間に星那は真犯人の手により危機に陥り。自分の中の闇を必死に抑え込もうとする彼女は危機に陥り、逸流にある事を願う。

 

「僕は何度も止めた。やめるべきだと言ったんだ」

 

 それは忘れられた、否、忘れなければいけなかった真実の解放。そこにあるのは痛ましい事実、決して救われぬもの。そこに埋まっていたのは混じり気のない「恐怖」の具現、道理や美学もなく、認識すらさせない混じり気のない闇。抱えた闇を以て全てを終わらせた叶音は最後、自分では覚えていない何度目かの、全てに蓋をする事を選ぶ。その最後に抱えたもの、その先に自分にとっての本当の罪がある事から目を逸らす。

 

「あたしは絶対に、ひとりぼっちにだけはならないの」

 

そしてまた叶音はフォビアを殺す事を選ぶ。独りぼっちではない優しい世界で、彼女だけの許しがある世界で。

 

 

誰もが闇を抱え、歪んでいて。それでいて救いようがない。まさにダークでサイケデリック、サイコ。この作品のタイトルに込められた意味に気付く時、きっと貴方も戦慄するであろう筈である。

 

背筋も凍るような作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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