読書感想:ポンコツ最終兵器は恋を知りたい

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は終末世界という言葉を聞いて、どの作品のどんな世界を連想されるであろうか。少女二人がただ、滅びゆく世界を旅するお話の世界であろうか。人類や文明を滅ぼすべく、絶対強者たる一匹の怪獣が全てを滅ぼしていった世界だろうか。それとも、神の名を冠する全てを食らう獣達と、獣の力を用いて戦う人類が暮らしている世界だろうか。

 

 

何れの世界も、終末というだけあって荒廃している。だがそんな世界にもドラマがあり、生きている人達の人生がある。それはこの作品においても、変わらないのである。

 

三百年ほど前に、「厄災」と呼ばれる存在との戦争が巻き起こり、それまで支配種であった人類は大敗し、あっという間に追い込まれ。神様が人類に戦う力をくれて、役債を封じる事に成功し、早くも三百年。人類は神様から与えられた魔力という力により、復興の一歩を歩き出したとある世界。その世界で「とある事情」からソロの錬金術師として遺跡探索に挑む少年、ミコト。彼はある日、かつての文明の遺跡を探索する中で。自身の「不幸体質」が呼び起こした地震により、遺跡の最奥へと落下してしまう。

 

「マスターはマスターです。わたしの全存在を預かる絶対の存在です」

 

 脱出のために彷徨う中、まるで最奥へと導かれるかのように向かう中。ガラス管の中、謎の液体の中で眠っていた少女との邂逅が待っていた。その名はサイファー(表紙)。記憶の全てを失くした、魔法とは別の技術を使う名の少女である。

 

魔法よりも圧倒的なその力で脱出を果たし、保護者である謎の女性、ミリアムに彼女を紹介し。記憶を無くした彼女の記憶を取り戻す、その為の手掛かりを求める中、彼等の住まう街に襲来するのは飛竜。サイファーの力で退ける事に成功するも、この世界の主信仰であるデウス教の神官騎士団長の一人、ゲアハルトにサイファーが「厄災」として狙われ。囮を引き受けたミリアムを残し、二人は南の禁則地を目指し、旅立っていく。

 

「いつか、ふたりで月に行ってみたいね」

 

旅の中、少しずつ蘇っていくサイファーの記憶。彼女の記憶の中にあった前文明、月までその居住域を伸ばしていたと言う事実に思いを馳せ。いつか行ってみたいなという夢を語り合いながらも、彼等は禁則地に眠る記憶の手掛かりを探しに行く。

 

見つけた手掛かり、そこに思いをはせる間もなく追いついてきた騎士団に囲まれ悪意を向けられ。今も尚、この世界から嫌われ悪意を向けられると言う事実に、ミコトは怒り。自身の血脈に課せられた呪いを解き放ったかと思えば、サイファーが暴走状態に陥り。その場に追いついたミリアムやゲアハルト達の力も合わせ、彼女を止める為に立ち向かう。

 

「じゃあ、ふたりで月を目指すっていうのはどう?」

 

その先に見つける、新たな夢。この世界に愛されぬ二人だからこそ見つけた、二人だからこその夢。そして始まる、はぐれ者の二人の恋なのだ。

 

どこか未熟で、けれど青臭くとも真っ直ぐで。そんな彼等の恋が独特の尊さを持っているこの作品。終末世界の恋を見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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