さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は一度でも、この世界は滅んで欲しいと思った事はあられるであろうか。あるかもしれないし無いかもしれない。しかし、意外とこの世界が滅ぶのは簡単なのだ。例えば明日にでも核戦争が起きたら、新型コロナよりも恐ろしい疫病が大流行したら、更には異常気象が続いたりしたら。どれか一つが起きても、速度に違いこそあれど、世界は滅ぶのかもしれない。
ではこの作品においては何が起きているのか。それはどこか幻想的で退廃的なこの表紙から察していただけただろうか。起きている事は異常気象。この作品における世界は、「冬」が終わらなく一年中季節が冬となってしまった。すると何が起きるのか。コメの不作、原油高の高騰、消費の落ち込み。世間では偉い人達が議論するけれど、結局何も出来なくて。まるで真綿で首を絞められるかの如く、ゆるやかに世界は終わりかける中、冬の景色は日常となっていた。
「でも俺たちはどうなるんだ?」
神奈川県、出海町。夏ともなれば海水浴客やサーファーでにぎわう海があるこの町も、今は例外なく雪の中。この町で暮らす少年、幸久。彼はある日、近所の別荘に越してきた少女、美波(表紙)と雪かきを通じ絆を深め。まるで自然な流れのように、恋人同士となっていた。
変わりゆく世界で変わらないもの、それは恋人同士の温かさ。リモート授業が基本になってしまった学校も、通う事が特に少なくなり。故にクラスの皆には気づかれぬままに、ひっそりと絆を深めていたのである。
こっそりとリモート授業を美波の家で受けたり、海釣りに出かけたり。二人でデートに行った帰りに、今までは見た事もなかった野生動物と自動車との事故の目撃者となり、被害者を救う為に奔走すれど、救えなくて。
冬に日常を埋められ色を変えられていく中、彼等には何も出来ない。当然である、彼等には何の力もないのだから。そんな中で、彼らに唐突に変化の時が訪れる。美波が肺炎に罹患した事を切っ掛けに、海外を飛び回る仕事をしている美波の父親が、美波を海外に連れていこうとする。
どうしようもないまま、このままこの時間が続けばいいと二人で当てもなく逃げ出して。だけど、世界はまるで彼等を拒むかのように明かりを無くす。
「だから、どこでもいい、この世界のどこかにいてくれ。たとえそれが俺の手の届かない場所であっても」
無明の中、自ら終わらせようとする美波。彼女を引き留める為、幸久は叫ぶ。彼女がいたからしれた事、自分の結論を。何処にいてもいい、必ず二人でいなくてもいい。繋がっている絆を信じられるから。君がいるから、こんな世界でも好きになれたと。だから
何処かに居て欲しいと。
「おかえり、美波」
「ただいま、幸久」
その願いを受け、彼女は未だこの世界にいる事を決め。少しの離別を経て、二人はまた出会うのであった。
ラノベ的ではない独特の寂寥感と終末感の中、染み入るような面白さがあるこの作品。独特の世界観に触れたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。