読書感想:10年ぶりに再会したクソガキは清純美少女JKに成長していた1

 

 さて、この世の中には「男子三日会わざれば刮目して見よ」という言葉がある。この言葉の真意とは、子供は成長が早いという事である。小さな手でもいつか、大人を追い越していくもの。大人は十年経っても変わらない、何故なら一定の完成をしてしまっているから。だが子供の十年というのは、とんでもなくその子を変えてしまうのである。

 

 

そう、この「十年」という歳月がこの作品では重要となってくる。この作品は年の差ラブコメである。もどかしい想いと、会えぬ間も育まれた恋心が交錯する、悶えたくなる作品なのだ。

 

高校卒業と共に就職、上京。しかしブラックでダークでビターな企業に囚われてしまい懲役十年。身体を壊した事で退職し、久しぶりに地元である静岡県富士宮市に帰ってきた青年、勇。十年ぶりの故郷の景色を前に、彼の心の中に思い浮かぶのは、かつて面倒を見ていたクソガキたちの面影。

 

「ああ、もう。どうして気づいてくれないの」

 

 思い出を振り返る間もなく、謎の美少女とぶつかってしまい。実家である喫茶店に戻った所、落としていた財布をその少女が届けてくれて。しかし少女は謎の様子を見せた後、足早に去っていく。何故か。それは彼女が羞恥心に襲われたから。何を隠そう彼女は、思い出の三人のクソガキの一人、未夜(表紙)だったのである。

 

わんぱくなままに色々やらかしてしまった過去は黒歴史。だからこそ自分から名乗ることは出来ず。何とか気付いてほしいと、自分の名前を当てるというゲームを彼に仕掛けていく未夜。

 

だが、鈍感なのか、それとも彼が思い描いている成長予想図と違い過ぎるからか。中々彼は気づいてくれない。

 

「なんちゅー面倒くさい女だ」

 

三人のうちの一人、バレー部のキャプテンとなっていた眞昼の事はすぐに気づいていたのに。嫉妬に駆られ、眞昼に半ば呆れられながらも、空回りしながらも何とか彼に気付いてほしいと、思っていく。手を伸ばしていく。

 

「この四人でまた一緒にいたいだけなんだよ」

 

行かないで、消えないで。そこにあるのはあの日の時間を取り戻したいと言う思い。離ればなれとなっても忘れられなかった恋心が願う、またあの懐かしい日々を、という切なる願い。

 

イオンで迷子になって勇を呼び出したり、廃屋に冒険に行って迎えに来てもらったり。確かに振り回してしまった、けれどあの日、確かに楽しかった。離れて分かった恋心、それを捨てることは出来なかった。

 

けれど、張ってしまった意地が悪戯を止められぬ。そこへ勇が知らぬ間に生まれていた未夜の妹、未空の余計なおせっかいが悪い意味で作用してしまい。二人は離別しそうになってしまう。

 

 もう避けられぬ離別、それが誘う涙。だがその涙が、気付かせる決め手となる。何度も見てきた泣く仕草と彼女の面影が一致し。やっとこさ二人は再会したのである。

 

「もうどこにも行かないでね?」

 

「行かないさ」

 

もうどこにもいかないで、再会した時、もう一度彼等の時間は動き出す。彼等の日常が幕を開ける。

 

だがこれは、まだラブコメの入り口に立ったに過ぎぬ。最後に残ったクソガキが現れる時、きっと始まるのだろう。四人でいたい、けれど特別には一人しかなれぬ、本当のラブコメが。

 

姦しい子供時代と、もどかしい現代を重ねて語る事でいじらしさとギャップで魅せてくるこの作品。もどかしくてこそばゆいラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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