読書感想:呪われて、純愛。

 

 さて、今作品の表紙に描かれている「一口齧られた林檎」を見て、画面の前の読者の皆様は何を連想されるであろうか。私としては「楽園追放」、という聖書に描かれているお話である。蛇に唆され知恵の実である林檎を食べてしまったアダムとイヴは楽園を追放され、人間として生きなければならなくなった。では、楽園を追放された先で向かうのが未開の荒野であるのなら。この作品は一体どこに向かおうと言うのか?

 

 

それはきっと、純愛が作り出す地獄。狂おしい程に甘美で、故に絡めとられていく地獄なのだ。

 

「ただ君は、『知人』に関する記憶がすっぽり抜けているみたいなんだ」

 

事故に遭い、記憶喪失となった少年、廻(表紙左)。彼が忘れた事と言うのは、「知人」に関する記憶のみ。ただ、誰かとの思い出だけがすっぽりと飛んでしまった状態。

 

「―――私と、恋人だってこと」

 

入院する彼の病室に現れた清純な少女、白雪を前に記憶の底から蘇るのは彼女の名前。キスと共に告げられたのは、彼女と廻が恋人同士、だったらしいという秘密。

 

「―――それはあたしが、本当の恋人だから」

 

だが、次の日に彼の前に現れたのは危うさと魔性の魅力を持つ少女、魔子(表紙右)。再び閃く記憶、そして告げられるのは彼女ともまた恋人だった、という秘密。

 

 一体どういう事なのか? 本当の恋人はどちらなのか? 訳も分からぬままに退院し向かうのは、現状で魔子と二人暮らしである家。妙にこざっぱりした家と、不在である魔子の両親。遠縁の親戚である廻を引き取った二人の不在に深まる疑念をそのままに、廻はモデルを務める魔子のマネージャーのバイトに戻りながら、日常生活に戻る。見慣れている筈なのに見慣れない、その日常の中で少しずつ蘇る記憶。だがその記憶は、謎が散りばめられたもの。

 

魔子には憎まれていた、なのに恋人同士だった。魔子の両親であり自分の養父母は、何かを起こしたらしい。白雪と魔子、そして廻は昔からの知り合い、だが白雪の転校により一時的に疎遠となった。点が一つずつ浮かび上がるかのように、蘇る記憶。その記憶は少しずつ、繋がりを見せ始める。

 

「ありがとう、白雪。俺の傍にいてくれて」

 

白雪と訪れた二人の思い出の地、そこで蘇るのは彼女との思い出。同時に取り戻す、自分の思いに導かれ交わすのは、思いを伝える言葉。

 

だが、それは地獄の入り口か。本当の想いに目を向けるなら、記憶障害は言い逃れに出来ない。そして知り合いであるらしい大人、古瀬との再会により容赦なく記憶の扉は開かれる。

 

そこで明かされるのは、過去の真実。悪に手を染めていた家族に自分達の手で引導を渡した、世間の悪意に晒されたと言う拭えぬ過去。

 

「だから―――一緒に地獄に堕ちて・・・・・・お願い・・・・・・」

 

そして、白雪も廻も大好きだと言う魔子の思い。廻の心の裏側、大切な部分を搦めとろうとする「共犯者」としての思い。そして、もう彼しかいないと言う縋りつくような思い。

 

否応なく自覚する、己の「業」。それは正しく呪いだ。呪われて、純愛なのだ。どちらも手放せぬ、まるで呪われたように。抱え続けていれば地獄に堕ちると知りながらも。

 

正に地獄、胃にこれでもかと攻撃してくるこの作品。毒々しいまでの愛が読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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