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読書感想:呪われて、純愛。 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、己の「業」に囚われて搦めとられて落ちていく。縋りつかれて、悪い魔女に騙されて、清純な白雪姫を知らぬ所で裏切って、より深みへ入り込んでいく。正しく「純愛」が作り出す地獄、というのは前巻を読まれた読者様はご存じであろう。そしてこれもまた忘れてはいけない。廻も魔子も白雪も、何処も特別なものはない普通の子供であるという事を。隠そうと思っても、隠しきれる保証はない。信じようと思っても、無条件に信じられるという保証もない。
そして廻の記憶は、既に大部分が取り戻されほどなくして全てが取り戻されようとしている。ならば、記憶喪失というのを言い訳にする事も出来ない。ならばどうなるのか。答えは簡単、さらに踏み込んでいくのだ、より地獄の深淵へと。
「たぶん俺には、そういう生き方しかできないんだ」
「―――愚かね」
白雪との蜜月の中、キスを交わそうとした廻の脳裏に響くのは魔子の言葉。まるで呪いのように刻まれたその言葉は、廻の心をこれでもかと揺らし。白雪と心を通わせようとした手を止めてしまう。
そんな彼だからこそ好きになった、と唇を奪った魔子は笑う。だがそれは、地獄の扉の向こうへ突き落される合図。廻を心配して戻ってきていた白雪にその場面を目撃されてしまい。そこから三人の間の関係、そして周りの友達との関係が一気に壊れ、狂いだしていくのだ。
疑い始めたのならば止まらない、ふと感じていた違和感が繋がり、否定したかった形を成していく。見たくもなかった真実が、見届けろとばかりに迫ってくる。
三人の絆に流れる不和は、周りの者達にも容易く察せられるものであり。友に魔子との逢瀬を見られ、そこで流れた怒りが更に絆を打ち壊していく。
「―――そんなこと、できるわけないじゃない!」
昔からお互いに知っている筈だった、だから本音も存分にぶつけ合っていると信じられた。だがそれは幻想であったのかもしれない。改めて、剝き出しの思いをぶつけ合い。廻を巡って激情をぶつけ合い。だが、魔子もまた心の何処かでは気付いていたのだろう。自分こそが二人の間に入り込む魔女であるという事を。自分こそが邪魔者であり、今この場にいるべき存在ではないという事を。
だからこそ、魔子は選んだ。色々な事を考えた末に、白雪が廻と別れる道を選んでいる裏、自分だけが身を引き、二人の前から消え去る道を。
「―――友達から、やり直してもらえませんか?」
最後に残した彼女の言葉、遺された二人が選ぶのはやり直す道。傷つけ合い過ぎてうまく修復できるかは分からないけれど。それでも、もう一度と選んでいく。
だが魔子のそれは、廻と同じである。自分だけが傷つけばいいというものともいえる。ならば一方的に投げたそれは果たして正しい事なのか。
深みに堕ち、その深淵で突き放される今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。