読書感想:ネームレス・レコード Hey ウル、世界の救い方を教えて

 

 さて、英雄とはその活躍で希望となる者である。その道は希望に満ち、誰にもに憧れられるものである。だが果たして、英雄と呼ばれた彼等は本当に英雄に値するのであろうか。もっと他に英雄と呼ばれるべき人がいたのではないだろうか。歴史にもしもを求めても仕方がないが、もしもがあったのならば、誰もが知る英雄は別の人物となっていてもおかしくなかったのかもしれない。

 

 

遥か未来、様々な姿かたちを取る機械生命体の群に人類の生存が脅かされる世界。滅亡の危機に瀕し、機械生命体の脅威に怯えながらも。人々は英雄が来るという予言と、その予言が書かれた書を持つ教会の教えを信じ、細々と生き延びていた。

 

「それでも、選ばれなかっただろ」

 

 その世界の中で、人類の生存圏の圏外で機械生命体との戦闘を幾度も経験しながらも生き延び、救道院と呼ばれる施設の首席である少年、レリン(表紙左)。だがしかし彼は英雄には選ばれなかった。英雄の一人として選ばれた幼馴染、アミカと別れ彼は、英雄と呼ばれた父親の遺言に従い外の世界へと飛び出していく。機械生命体との戦いの末にたどり着いた謎の空間。彼はそこで一つの運命的な出会いをする事となる。

 

「私の名はウル。貴方に仕える一冊の記録」

 

その名はウル(表紙右)。「究極」の名を冠する、命持つ機械の完成形、その一機。彼女は言う。私は貴方を英雄にするためにここにいる、という事。このままだと人類は残らず滅び、人間は全て死に絶えると言う事を。

 

彼女が示し共有した情報の中、僅かに理解できた部分に描かれているのは人類の滅亡。それを打破できるのは英雄のみ、だが英雄はこのままでは確実に全滅する。だからこそウルはレリンへと示す。「英雄を救う英雄」、決して記録には残らず栄誉もない「陰の英雄」としての道を。

 

その道に乗ることにし、共有した情報の中にあったクエストへと臨んでいくレリン。しかし彼の道を阻む、決して知られてはいけないという制限。更には英雄を狙う、人間勢力の半機械の暗殺者やウルの同型機といった脅威が次々と出現し、途端に彼の道は困難を極めていく。

 

「それが俺の、存在する理由だからだ」

 

「助けたい、人達がいる」

 

突如接触してきた謎の人物によるメッセージで告げられた、この世界が既に詰んでいると言う事実。しかしそれでも、レリンは必死に戦う事を選ぶ。

 

その胸に宿るのは改めて見出した自分の存在理由。決して英雄になれぬ、けれどそれでも。

 

どうにもならないことは、どうにもならない、だとしても。今、覆す為に銃を向ける。その姿は誰にも知られずとも、きっと英雄のようなもの。

 

「どうにかする。手伝ってくれるか、ウル?」

 

「もちろん、貴方の望む通りに―――私の英雄」

 

そして彼は一人ではない。傍らには彼女がいる。だからこそ為せる、不可能を覆すことができるのである。

 

かなり硬派なバトルファンジーであり、故に重厚な面白さを楽しめるこの作品。最近の軽い作品に飽きた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ネームレス・レコード Hey ウル、世界の救い方を教えて (MF文庫J) | 涼暮 皐, GreeN |本 | 通販 | Amazon