読書感想:虚ろなるレガリア Corpse Reviver

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 さて、竜殺しの英雄と言えば一体誰を、画面の前の読者の皆様は連想されるであろうか。どんな英雄が、貴方にとっては一番憧れる英雄であろうか。

 

古来、英雄とは何を為せば英雄と呼ばれるのだろうか。様々な偉業があり、英雄と呼ばれる条件は人それぞれ、時代それぞれで異なってくるものがある。ではその中で「竜殺し」と呼ばれる偉業は一体どんな立ち位置なのか。

 

 それは、神話の世界から語り継がれる、今の時代では決して不可能であり、だからこそ夢として憧れる事のできる、御伽噺が如き偉業。そして、英雄譚の原初の形の一つがまさにこれ、と言っても過言ではない。

 

前述した通り、今の世界においては竜殺しなんて不可能である。勿論そうである。竜なんて何処にもいないのだから。

 

 だが、この世界においてはそれが可能である。何故ならば、この世界には本物の「龍」が存在しているのだから。そんなこの世界の日本は、滅んでいた。壊滅していた。

 

何を言っているのかと思われる読者の皆様もおられるかもしれない。だが、それこそは事実である。この作品における日本は完膚なきまでに壊滅している。一部の僅かな生き残りを除いて日本人は絶滅といっていいほどに滅んでいるのだ。

 

 では一体、何故そんな事来訪をになっているのか。その答えは、簡単と言ってもいいのかもしれない。始まりは後に悪龍の名を付けられた小さな隕石であった。だが、その隕石は複数の火山の噴火と、「魍獣」と後に呼ばれる神話の怪物に似た姿を持つ獣達の来訪を招き、トドメと言わんばかりに世界中の要人達が一斉に、日本人狩り、「大殺戮」を民衆へと命じたからである。

 

そして日本人は死に絶え、東京二十三区は異界への門から現れた魍獣が跋扈し、各国の部隊たちが最新装備を整え火花を散らす無法の封鎖地と化していた。

 

そんな無法地帯の片隅、廃校となった大学を根城に骨董品や美術品を廃墟から盗み出し、回収する事を生業とししぶとく、だがたくましく生き抜く少年がいた。彼の名は八尋(表紙右)。

 

 何故彼は魍獣蠢く廃墟の中で生き抜いてこれたのか。それは彼が、龍殺しを成し遂げ龍の血を浴びた事で不死の肉体を得、更には自分の血という魍獣に対する必殺の武器を手に入れていたからである。

 

そんな彼が今、みっともなくとも生にしがみついてでも成し遂げたい事、それは復讐。

 

その相手は、自らの妹である珠依。彼だけは知っていた。はじまりは隕石などでは決してなかったこと。あの日、大災厄を巻き起こしたのは虹色に光る龍を従えた、妹であった事を。

 

 そんな彼の運命はある日、大きな転機を迎え確かに動き出す。美術商を名乗る謎の双子姉妹、ジュリとロゼとの出会い。そして、彼女達の依頼により訪れた東京ドームの跡地、魍獣を従えた謎の少女、彩葉(表紙左)との出会いによって。

 

双子姉妹の部下達、それは彼の仲間へと徐々に代わり。自身の好いていた配信者の中の人である彩葉との交流は、彼の守りたいものへと代わり。

 

 確かに今までは一人であったのかもしれない。だが今、彼には大切なものが出来た。

 

「前にも言ったろ。あんたはあんたの好きにすればいいんだよ。ほかの龍が邪魔をするなら、そのときは俺が隣で守ってやるって」

 

「死が二人をわかつまで」

 

面倒くさいなんてもう言ってもいられない。抱え込む、その理由が出来たのだから。

 

王道ド直球のバトルファンジーであり、アポカリプスであり、そして壮絶な覚悟を背負った少年が、仲間に囲まれながらもふてぶてしく生きていくこの作品。これはまだ序章に過ぎない。けれど、それでも。大きな物語の始まりの一歩、それだけでもわくわく出来るのである。

 

安心して読める作品を読みたい読者様、王道のファンタジーを読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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