読書感想:勇者、辞めます3 ~次の職場は魔王城~

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:勇者、辞めます2 ~次の職場は魔王城~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、アニメも絶賛放送中、そろそろ折り返しとなるこの作品であるが、完結巻である今巻では一体、どんなお話が描かれていくのかと言うと。先に画面の前の読者の皆様にお聞きしておくが、今までレオが改善してきたのは魔王軍の内情、である。ではこれ以上、何を解決すべきなのか。答えは簡単、軍隊もこれが無くては始まらぬ、「国家」そのものである。

 

 

人間界との和平交渉も進み、平和を望むエキドナの願いのまま、融和を果たそうとしている人間界と魔界。そして交渉が一段落した事で、エキドナとレオ達魔王軍は意気揚々と凱旋する。

 

「このままだと、魔界は滅びるぞ。一年以内に」

 

 だがしかし、魔界を隅々まで見てきたレオが齎す衝撃の真実。それはこのままだと魔界はあと一年以内に滅んでしまうと言う事である。

 

何故か。それは「魔素汚染」と呼ばれる環境問題が急速に侵攻していた事。そして、人間界との融和を果たし人間界の食事が流入を開始した事で、魔族の舌が肥え始めてしまった事。そして融和を引き継ぐエキドナの後継者がいない事。三つの問題が連立する中、魔界にはエキドナに対する不満が溜まりだし、再び侵攻論が持ち上がり始めていたのだ。

 

当然ながら、再び戦いが起きればレオも敵対するしかない。それを避けるために急ぎ改善へと乗り出し、前巻で仲間にした再生の専門家、ヴァルゴに協力してもらいながら調査と改革を同時に進めていく。

 

その姿を見、エキドナの心に浮かぶのは自分は魔王でいいのかという疑問。そして水質汚染の原因を探るべく水源に向かったレオが出会ったのは、英国淑女風の性格の同型機、アクエリアス。かつての戦いで魔界に流れ着き、水の精霊であるウンディーネに助けられ。そして今は湖の底に封印されている彼女を守護する者である。

 

 そう、汚染問題の一端を司るのは彼女である。何故そんな事になっているのか。それはかつての戦争でアクエリアスが二代前の魔王の奸計に囚われている中で暴走させられ、やむを得ず封印したから。その贖罪を果たす為にもウンディーネを調律するのみ。

 

ウンディーネの巫女でもある少女、クロケルが語る。アクエリアスであれば、巫女の素質を満たしている。だからこそ、救える筈だと。

 

「俺が仕える王は、お前一人しかいない」

 

作戦の前に、副王であるエキドナの妹、イリスに背を押され。エキドナへと真っ直ぐ思いを伝え彼女の悩みを解きほぐし。魔王軍全体で暴走するウンディーネの化身と激突し、彼等に背を押されアクエリアスが彼女を解き放つべく突き進む。

 

「お前はいっつも、俺が一番欲しい言葉をくれる。助かってるよ、マジで」

 

 激突の後、再生を始める魔界。その姿を見、改めて思うエキドナの心に浮かぶのは新たな夢。それはレオの為に永遠を手に入れる事。いつか必ず独りぼっちとなってしまう彼を、独りぼっちにしない事。

 

それは論理的ではないかもしれぬ、見果てぬ夢かもしれぬ。だけど、確かに「幸せ」へと繋がる夢。彼が一番、欲しかったもの。

 

完全無欠の幸福な結末、それが心の中に風を吹かせる最終巻。

 

是非皆様も見届けてほしい次第である。

 

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