読書感想:妹はカノジョにできないのに

 

 さて、画面の前の読者の皆様には言うまでもないであろうが、実妹はヒロインにはならぬ、それは何故か。それは血のつながりと言う禁忌があるから。では義妹はヒロインとしてセーフである。それは何故か。何故なら血のつながりが無いので問題が無いから。という話はさておき、この作品を読まれる読者様が画面の前におられたら、どうかお覚悟いただきたい。―――見事にはしごを外されても、私は聞いていないと責任を取れぬので。

 

 

こぢんまりとした一軒家に家族四人で住む、ごく普通の少年、春太。彼の特徴を敢えて言うのであれば「シスコン」という事であろう。その対象となる雪季(表紙)、中学三年生。容姿端麗であり素直な性格で可愛くて。けれど今も部屋を同じくする程の仲良しであり。

 

「朝のハグですよ、ハグ。忘れてました」

 

そして一緒に遊ぶのもスキンシップも当たり前。そんな「ブラコン」と形容するのが相応しい筈の少女である。

 

そんな彼女との仲を、別の中学から来た友人、晶穂を始めとする友人達にからかわれたり。雪季も通う母校の中学を訪ね、彼女の普段の姿を垣間見たり。まるでぬるま湯のような日常は、穏やかに続いていた。

 

 だがしかし、その日常はある日、唐突に崩れ去る。多忙ですれ違っていた両親から唐突に告げられた、離婚という選択。しかしもう一つの事実の方が重要であった。それは実は両親は再婚同士であり、二人は連れ子同士であったという事。つまりは二人は血のつながりのない義理の兄妹だったのだ。

 

そうなってくると、がぜん意識が変わり出す。今まで「妹」としてしかみていなかった雪季に急に「女」を意識しだす。だが別離は避けられず、雪季は県外の学校へと転校してしまう。

 

離れて分かる、自分がどれだけ雪季に依存していたのか。どれだけ彼女を、心の中では愛していたのか。

 

「あたしと付き合おうよ」

 

日々、心に穴が開いたような日を過ごす中。春太は晶穂に提案され、彼女に慰められるかのように付き合いだし。彼女の活動を支援していく事となる。

 

だが、忘れられる訳じゃない。周りからはシスコンと言う印象が消えても、心の中にはまだ雪季の幻影がいる。

 

その最中、雪季からの連絡に不審なものを感じ。夜通しバイクを飛ばし駆けつけ目撃するのは、彼女に対する苛めの現場。

 

「私、やっぱりお兄ちゃんのそばにいたい・・・・・・!」

 

 それを目撃し、冷静でいられる訳もなく。苛めの主犯たちを説き伏せ、雪季を助け。二人きり、もう一度思いを確かめる。兄妹と言う禁忌を上書きする、まるでマグマのような慕情が心を突き動かすままに。ここにいるのは「男」と「女」であると言わんばかりに、衝動のままに思いを確かめる。

 

「はじめまして、お兄ちゃん」

 

だがしかし、雪季を取り戻した春太を更なる衝撃が襲う。それは「彼女」が、妹であるという事。

 

さぁ、そうなると「妹はカノジョにできないのに」、このタイトルの意味が変わり出す。絶対に「妹」と結ばれる、という能書きが複雑さを増してくる。

 

 どうか画面の前の読者の皆様、覚悟してこの作品を読んで欲しい。この作品は、只のラブコメではない。兄妹のラブコメを楽しんでいたら急に足元を破壊して沼に叩き込むような、激しくて熱い「愛」の物語なのである。

 

正に暴力的な衝撃に襲われるこの作品、甘いだけのラブコメよりもお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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