読書感想:自炊男子と女子高生

 

 さて、自炊と言うものは面倒くさいものであるという。手間もかかるし、そもそも最初から美味しいものが出来るわけでもなく、そもそも自炊を諦める人もいるらしい。だが、自炊と言うものは極めてみると面白い、と言う人もいる。画面の前の読者の皆様はどちらの意見に賛成であろうか。と、前書きはここまでにしてこの作品はその「自炊」という要素が重要なファクターとなるお話である。

 

 

大学生活をしながら、大学の近くで一人暮らしをする青年、夕(表紙上)。親からの仕送りを受け、少しでも食費を節約する為に。若干辟易としながらも彼は日々自炊に励んでいた。

 

「すっっっごく美味しいですっ!」

 

そんなある日、彼は運命的ともいえる出会いを果たす。そのお相手の名は真昼(表紙中央)。隣の部屋に住む女子高生であり、彼の目の前で合鍵を無くし困っていたのである。

 

マスターキーの到着を待つ間、家に迎える事になり。彼女が空腹であると判明し、何気なしに食事を振る舞い。彼女は夕の未熟な腕の作る食事に目を輝かせ、こちらもお腹が減るような食べっぷりで平らげて見せる。

 

彼女は語る、こんなに美味しいご飯は久しぶりだと。彼女の友人であり保護者でもあるひよりは語る。既に彼女の父親は亡く、彼女の母親は多忙を極め彼女は実質一人暮らしであると。

 

「大したものは作れないけど・・・・・・また一緒にご飯を食べよう」

 

だからなのだろうか。彼がそんな事を言ったのは。その言葉から始まる二人の関係。彼の家に彼女の居場所が出来ていく。彼女のエプロンが用意され、二人で台所に並ぶ時間が出来ていく。

 

それはまるで、夕が暮れて明け、真昼の光が染めていくように。真昼が暮れ、夕の光へと色を変えていくように。

 

ひよりや夕の学友である蒼生を巻き込み、朝ごはんのトーストやカレーライス、豚汁や唐揚げといった料理を交えながら。少しずつ、小さな世界で二人は交流を深めていく。

 

「さっさと行きなさいッ!」

 

 そう、まだ恋心ではないけれど、それでも確かに真昼にとって夕は大切な存在、かけがえのない存在。だからこそ、この日々を失いたくない。母親からの一言により失われそうになる日々の中、その最後の一瞬である体育祭の中で。ひよりに文字通り尻を蹴飛ばされて押され、夕と向き合い。真昼は涙ながらに己の思い、まだ離れたくないと言う思いを叫ぶ。

 

「俺はそんな大層な人間じゃないですよ・・・・・・でも、分かりました」

 

その思いを聞き、真昼の母親は笑顔と共に真昼を夕へ託し。謙遜と共に、夕は確かにうなずいて。また二人の日々が幕を開けていくのだ。

 

アパートの一室という小さな世界から、無限の如き温かさが溢れ出て。そんな中に確かに甘くて温かい、正に自炊料理のような温かさのあるこの作品。正に美味しい、悦い。故に私は胸を張って太鼓判を押したい、この作品、一つの最高な面白さを持つ作品であると。

 

まだまだここから続く日々、末永く二人の尊い日常を拝みたい次第である。

 

 

心温まる、等身大のラブコメが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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