
さて、心という器は一たび罅が入れば二度とは元に戻らず、一度壊れた信頼は簡単には取り戻せない、という事らしいのだが、実質その通りであるかもしれぬ。心の傷、というのはそう簡単には消えないし、一度芽生えた不信感は簡単には拭えぬもの。この作品はそんな、ヒロインであるひより(表紙)が傷ついたところから始まるラブコメである。
中学時代はバスケ部で活躍するも、高校に入学したばかりの今は所属していない、母子家庭の三兄弟の長兄として育った少年、雄介。ある日彼が短期バイトの終わり、ハンバーガーショップで目撃したのは、ひよりと、その彼氏でありバスケ部エース、仁秀が言い争っている場面。悪いとは思えど聞こえてきた話からすると、どうも仁秀はひよりと付き合いだした頃から二奈という少女と二股かけていたらしく。彼のこっそり見守る前、最低な性根を晒す仁秀にひよりはブチ切れ泣きながら去っていき。雄介は慌ててその後を追いかける。
「ハンバーガー、食べる?」
「七瀬さんの思ってたことは間違ってない」
「なんかごめんね、気を遣わせちゃってさ」
小さな公園で話しかけ、持っていたハンバーガーをご馳走し話を聞き翌日、ひよりは何処かすっきりした様子を見せ、雄介へのお礼に家に晩御飯を作りに行く、と提案し。ここより始まるのは二人の関係。雄介の家、あっという間に母親と弟たちに遭遇、何だかんだと賑やかな家族に癒されて。ひよりが雄介を抱きしめて甘えさせたりもして。
「あたしもう、完全に落ちてる・・・・・・!」
出会って未だ数日なのに、まだ連絡先も交換してないのに。何がひよりにハマったのだろう。それはきっと雄介の優しさと誠実さ、であるのだろう。仁秀のように軽薄ではなく、自分の事をきちんと考えてくれて。それでいて、ぐいぐいと来るわけでもなくきちんと線は引いていて。紳士的なその態度に、ひよりの心はどんどん絆され、落ちている事を実感させていく。
「・・・・・・馬鹿じゃないの、ほんとに」
「最悪だ、最悪だ、最悪だ・・・・・・!!」
気が付けば、共に時間を重ねていく雄介とひより。一緒に喫茶店に行ったり、ラーメン屋に行った帰りに雨に降られるも傘が誰かに持っていかれていて相合傘をする事になったりと、どんどんと心の距離は近づいて。
その裏、何も理解できていない愚者、仁秀は少しずつ、失っていく。あらすじにもあるであろう、ラブコメとざまぁは同時進行なのだと。 雄介とひよりの親密ぶりを近くで見せつけられて、疑問は尽きぬも何も状況は思った通りにならず。それどころか、部活においても精彩を欠き、更には傘を持って行った犯人が自分だと部員にバレてしまったり、と。 どんどん失い信頼を損ない、負の袋小路に突き進んでいく。
「・・・・・・幸せにするよ」
「そうだね、両想いだ」
さて愚か者に語る尺はもういいであろう。 話を戻そう。ヤキニクパーティーの後、突然の豪雨と暴風で雄介の家にお泊りする事になったひより。二人きりのお部屋で語るのは、お互いの思い。お互いを大切に思っている、それは間違いない。だけどひよりはまだ見えない所にもトラウマ、傷を抱えているかもしれぬから。だからゆっくり、時間を掛けて。いつか全部笑い飛ばせる時まで、待っているという答え。
「幸せにするよ、絶対に。ひよりさんが、ずっと笑顔で居続けられるように」
誓うのは約束、アイツの事を忘れるくらいにという誓い。 ざまぁされた愚か者の事は放っておいて、二人のもどかしくて甘い、二人並んで歩くような速さで進んでいくラブコメが始まるのだ。
愉快痛快爽快なざまぁと、お前らとっとと結婚しろよ、といいたくなるラブコメが両立しているこの作品、実に悦い、中々に味わい深い。とても面白いと間違いなく言える。そんな面白き作品を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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