読書感想:運命で結ばれた恋人……のあざとい妹と一線を越えてしまう、あの日まで

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 さて、ラノベ世界に於いて暫し「幼馴染」というものは「家族」とほぼ同じ意味で使われる事があると言うのは、画面の前の読者の皆様も何となくご存じではないだろうか。それもまた当たり前の事なのかもしれない。何故ならば、それだけ側にいたということの証明であり、もはや分かたれる事の考えられない程に、隣にいるのが当たり前と言う存在であることが多いからである。だがしかし。そこにもし、「恋」を多めに交えぬのなら。当たり前、その関係はもしかすると当たり前でなくなるのかもしれない。

 

 

春、それは始まりの季節。ごく普通の少年、一心の元にも新たな物語の始まりが訪れる。始まりを告げる主の名は真昼。かつて幼馴染でありながらも引っ越しにより遠く離れる事になり、また会えたのならば恋人になろうと約束し別れた少女。

 

「わたし、今でもずっと、一心が好きだよ」

 

 親元を離れ日本に帰ってきた彼女。一心の親の計らいにより始まる、彼の家での共同生活。果たされる約束は心を結び。ここまでであれば、この作品は運命的に再会した幼馴染同士のラブコメであっただろう。しかし、題名を見れば分かる通り、そうは問屋が卸さない。一心の心をかき乱す存在もまた、共に訪れる。その名は彩夜(表紙)。真昼と共にやってきた、真昼の妹である。

 

「お姉ちゃんには、内緒ですよ?」

 

恋人として絆を結び直した矢先の、彼女からのキス。夢か現かも分からぬ記憶の中で残る感触。それが心に刺さる棘となる中、彩夜は何処か一心を意識させるような行動をとっていく。

 

 ある時は学校の部活の場で。またある時は、ふとした日常の中で。何気ない日々を積み重ねる三人。ある時は彩夜と二人で。またある時は真昼と二人で。そんな日々の中、何故か一心の心は揺れ動く。

 

それもまた仕方のない事かもしれぬ。なぜならば、真昼とは既に家族のような存在であるから。既に恋人を通り越した距離感だからこそ分からぬ甘さがある。そして彩夜とは思い出をほぼ共有していないからこそ。彼女との関係は「当たり前」ではない新鮮なものとなる。

 

何方も大切、どちらも手放したくない。彩夜が過労で倒れ引き離させそうになった時に強く思った心の叫び。家族のように大切にしたいからこそ。これからもずっと、と願った想い。

 

「私はずっと一心さんのことが好きです。だから―――」

 

 しかし、その思いはすぐに揺らされ塗り替えられる。秘密を作らぬという決意の矢先の二度目のキス。秘密にしなければならぬ秘密によって。

 

この作品は未だ、始まったばかりである。約束された終焉、苦い結末へ向けて歩き出したばかりである。

 

だからこそこの先に何があるのか。どうしても気になってしまうのである。

 

運命で結ばれた恋人……のあざとい妹と一線を越えてしまう、あの日まで (ファンタジア文庫) | 来生 直紀, pon |本 | 通販 | Amazon