読書感想:いつもは真面目な委員長だけどキミの彼女になれるかな?

 

 さて、世の中に毒親と言う言葉が出現して今年で何年になるのだろうか、という話はともかく。ラノベの世界においても毒親、というのは時々見かけられるが、そんな親も種類は変わらぬように見えて、実は色々種類があると言うのは画面の前の読者の皆様もご存じであろうか。まぁその種類については各自で調べていただくとして。その種類の一つとして、理想の押し付け、というのがあるというのはご存じであろうか。

 

 

子供と言うのは親のアクセサリーでも、ましてや人形でもないのだが。しかし今の世の中にも、そんな押し付けに悩んでいる若者がいるかもしれないのは事実である。この作品の主人公とヒロインもまた、そんな押し付けに悩んでいる者達なのだ。

 

「私も学校と違って、こんな服装でウロウロしてること秘密にしてほしい」

 

「誰にも言わないよ、約束する」

 

中学時代は陸上に打ち込む生徒であったが冤罪をかけられた事により一時的に不登校になり、夜の花街に伝手を持つ祖母の手で、夜の街での配達のバイトに放り込まれた少年、陽都。彼がある日、夜の街で絡まれている所を助けたのは、クラスの委員長である紗良(表紙)。「普通」を押し付けてくる母親に困らされている陽都と同じように、紗良もまた自分なりの考えで、しかしありがた迷惑に自分の筋書きを押し付けてくる母親に悩んで、夜の街で素の自分を出している身。何となく同じ秘密を抱えた二人は、秘密を共有する事を選び。体育祭の実行委員に立候補した紗良と共に実行委員をする事となって。表では実行委員同士、裏では「秘密の親友」、として共に過ごす事となる。

 

 

2人でマックに行ったり、紗良が知らぬ間に抱えていた問題を陽都が解決したり。子供っぽい願掛けを二人でしたりして。 そこにいるのは親に押し付けられた仮面を被った二人ではなく、ごく普通の当たり前の二人。

 

「私、すごく頑張ってる」

 

 

そして、素の顔を見るからこそ、陽都は紗良の頑張りを認める、褒めてくれる。それは誰しもから肯定を貰えなかった彼女にとっては、初めてのもの。まるで渇いた砂漠に水が染み渡るように。だからこそ、当たり前だったのかもしれない。彼女が彼に、心惹かれていくのは。

 

彼女は願う、「穢して」ほしいと。自分の事を変えてほしい、助けてほしいと。

 

 

「だからもう、吉野さんは違う吉野さんになった。ここにいるのは誰も知らない吉野さんだ、悪い子の吉野さんだ」

 

 

「もっと好きになって。私をもっと好きになって、どうしようもないくらい好きになって」

 

 

その願いを陽都は受け入れ、彼女が知らぬ間に囚われていた「理想」をぶち壊す事で「穢して」救う。ここにいるのは悪い子だ、誰でもない子だ、と。その救いを受け、紗良は母親への反抗の一歩を踏み出し。思いを告げて結ばれるのである。

 

 

同じ痛みを抱えた者同士による、尊い関係性が眩しいこの作品。心悶えたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。