
さて、遠距離恋愛、というのはメリットは多分ないようなものであろう。何せ、離れた場所にいる恋人に何か起きた時はすぐに駆け付けられる訳でもないし、相手と顔を合わせてコミュニケーションが取れる訳でもないし。そう考えるとデメリット、の方が多いかもしれない。相手の事を信じ、恋愛をしなければならないのだから。と言う訳でこの作品は、遠距離恋愛中の恋人がいる状態から始まる、既にヒロインレースは決着がついている筈、のお話なのだ。
「私、遠距離なんかで絶対別れないから」
幼き頃より転勤族の親の都合で全国を転々とし、その道中で何か辛い思いをして。中学校三年の時、三重から東京へ。主人公である四季は、恋人である由奈に懊悩を抱えてまだ恋人でいたい、と言おうとした途端に由奈から決然と言われ。遠距離恋愛の道を選び二年。高校二年生になった四季は初めて転勤について行かず残り、東京にいた。
「さて、これからどうするかなぁ・・・・・・」
しかし、一人暮らしを始めて早々、四季には一つの壁が立ちはだかっていた。それは一人暮らしには必須の料理スキルの無さ。早々に自炊を諦めるも食生活の乱れでぶっ倒れて由奈が心配して駆けつける結果となり。僅かな逢瀬の後、自炊を身につける必要があって。彼は料理のスキルを身に着けるべく、学校に存在する料理部へと入ることに。
「うん。私、変わってる人、好きだよ」
そこで知り合ったのは、小悪魔な後輩の葵(表紙左下)、何か事情を抱えているらしい春(表紙右)。葵には揶揄われ、春には警戒されたりするある日、街で目撃したのは春が男に迫られている現場。連れ出して話を聞けば、学校に秘密でバイトしてるお店の店長に言い寄られているらしく。偽彼氏として防波堤になる代わりに、料理を教わることに。
「・・・・・・ごめん。なんでもない」
防波堤になって貰う中、春の心の中に芽生えていくのは未知の感情。一緒に居て楽、助けられてばかり。全く以てこの気持ちはわからない。
「この話、カノジョにバレるとまずいよね?」
その思いが形になったとて、叶わぬとも知らず。そんな中、四季の一つ年上の幼馴染である涼(表紙左上)が思わせぶりな態度で動き出す。由奈の事も知っているからこそ、秘密を握り接近を始める。
「お互い、忘れよっか」
が、しかし。約束をすっぽかされた葵の一言で春は知ってしまう。四季に彼女がいる事を。ならば諦めよう、そうしたのだけれど。事故で交わしたキス、それを事故という事で互いに割り切ろうとして。割り切れぬ気持ちが心の中で重さを増していく。
「まったく、四季は私がいないとダメなんだから」
そうとも知らず、四季は春を助けてくれる。困っている時に支えてくれる。まるでそれが当然、と言わんばかりに。その無償の優しさにどんどん惹かれ往く中、目撃してしまう由奈の姿。突き付けられる、決定的な敗北感。
「やっぱりしきくんじゃないと、だめだ」
が、しかし。胸の中鎌首をもたげて吼え始める、恋心が。好きになった心が、君じゃなきゃダメみたい、と叫ぶ。諦めきれぬと吼え始める。そうして春は決意する。最低な行為に手を染めることを。そうして新たな関係が始まるのだ。
これは四季が悪いのか。悪いのかもしれない、でも悪くないのかもしれない。彼がこの状況を創り出したのは事実、だが彼の純粋な善意が助けたのも事実。だからこそ周回遅れの恋は幕を開ける。大外から追い込んで差し切らんとするかの如くに。
切なくて剥き出しな感情が交錯する、独特の不純さがあるこの作品。飴月先生の作品が好きな方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。