さて、前世の記憶と言う要素は転生、という出来事と紐づけされて語られる事が多いが、実際転生と言うのは本当にあるのだろうか? という問いの答えはまだないであろう。転生と言うのは観測できるわけでもないから。しかし、ごく一部の例であるが、自分が見たことのない筈の景色の記憶を騙る子供がいると言うのも確かであり、もしかすると転生、というのは本当にあるのかもしれない。
と、ここで一つ。画面の前の読者の皆様ももうご存じであろうが、転生前の自分と言うのは別人である。当たり前だが。かつての自分がどんな存在であっても、今の自分には関係が無いのだ。それはこの作品の主人公、蒼真(表紙右)とヒロイン、昴(表紙左)においても同じである。
かつてとある異世界で女勇者、プレセアと激突し彼女により死を迎えた最凶の魔王、レグナ。その前世を持ち、最悪のタイミングで記憶と力を取り戻した事で、中二病扱いされ。しかし、かつて魔王であっても、今は関係なく。気の合う友人達と彼は今、高校生活を始めようとしていた。
「滅びるがいいです、魔王レグナ!」
「恥ずかしいからその名前で呼ばないでッ!」
が、しかし。新入生オリエンテーションを前に、かつて女勇者プレセアであった昴と邂逅した事によりその願いは打ち砕かれる。今も尚、勇者であると宣う彼女は取り戻していた勇者としての力を振るい彼を追い詰め。しかしここは現代日本。そして蒼真は倒すべき魔王ではなく、只の少年である。そこを突き付けられた昴は蒼真の予想外に一先ず矛を納め。既知の相手であった彼女が体調不良となり、保健室まで送った、という名目で何とか誤魔化し。二人は日常に戻っていく。
さて、この出会いは果たして不運か、幸運か。どこぞの神様の悪戯か、それとも空気を読まぬ世界の運命力か。
「・・・・・・わたしも、それでいいのです?」
「―――俺たちはやり直す機会を与えられた」
その答えは誰にも分らぬ。けれどこれはきっと、神様がくれた機会。どこかお互い似ていて、けれど相容れずお互いに分かり合えず殺し合ってしまった二人。そんな二人で、今度こそ「理解」しあえ、というお達しであったのかもしれない。
そう、「理解」である。そして彼等は、前世の力も、記憶も持っている。だからこそ、今は只人であるお互いが、色々な意味でよく見える。 語り合う事もなかった二人が語り合い、オリエンテーションやキャンプ、更には遊園地と言った場所で、共に青春を過ごす事で。お互いにお互いの事を知っていく。分かり合っていく。
「ずっと一緒にいるって、約束してほしいのです」
「約束だ」
共に積み上げていくのは「普通」、それこそが二人に必要であったもの。暴走しがちな昴の面倒を蒼真が見る形となり、気が付けば二人一緒が自然となって。キミじゃなきゃダメみたい、と言わんばかりに気が付かぬ間に「特別」となっていくのだ。
弾むような青春の中で、仄かに香るラブコメが心をくすぐるこの作品。元気になれるラブコメを読みたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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