前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/04/14/234058
さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。この表紙をじっと見ていただきたい。この時雨、ものすごく妖艶ではないか。まるでこちらを誘うかのように、引き込むかのように魔性の輝き、妖しい輝きを持っていると言っても過言ではないであろうか。
前巻の最後、そのインパクトからはや数か月。この時雨というヒロインが更なる毒を博道の心の中へと染み込ませてくるのが今巻である。
拒まれても尚、想い続けていいかと聞き博道を折れさせたかと思えば、一人の少女として無条件に肯定したりして。
かと思えば、時にビキニを着て博道の入浴中に乱入し共に風呂に入ったり。
それはまるで、気付かれぬうちに心に忍び込んでくる蛇のように。まるで、自らの側にそっと侍っていつ影のように。
ゆっくりと、じっくりと。自らの毒で博道を穢し、自分の色に染め上げていくかのように。純粋な恋愛に焦がれる彼を堕落と背徳の道へと誘い込むかのように、まるで囲い込むかのように。
その背中を押してしまうのは皮肉にも、博道が大切にしたいと願う恋人、晴香である。
思えば当然の事であるのかもしれない。恋人となったのならば、その先へ、その先へと願いたくなるのは。
手をつないだのならばキスもしたい、そしてもっとその先まで進みたい。
しかし、その想いを晴香が拒む。先に進む事を彼女は拒む、その根底にあるのは彼女が忌む相手から刻み込まれた歪み。
だが、その拒絶は。大切にしようとしていた博道の手を払いのけ、今までの思い出すらも見えなくして博道をこれでもかと迷わせる。
「頼む・・・・・・・・・・・・晴香のこと、忘れさせてくれ・・・・・・・・・」
だからこそ、仕方のない事なのかもしれない。すぐ側にいて、彼の事を受け入れてくれる時雨に縋ってしまうのは。
そして縋られ、姉の本心を図らずも聞いてしまった時雨の心の中に芽生える感情、その名は―――「憎悪」。
時雨が聞いた本心は、到底彼女にとっては分からない考え。それはまるで宇宙人のよう。
愛する人を傷つける、自分だって好きなのに。なのに自分より早く出会っただけという理由で隣にいる。
「ずいぶんと手前勝手なことばかり言うんですね。―――姉さんは」
だからこそ、彼女は二度と戻れなくなる引金を引いてしまった。もう二度と、傷つけられる彼女を見たくないから。
歪で禍々しくて、毒々しくて。だけど歪んでいるけれど、彼女達の根底にあるのは確かな感情、その名は「愛」。
正しく不純愛ラブコメ、そういうしか他になく。ご都合主義も不思議な事も起きはしない、だからこそまるで心を抉り込んで傷を刻み込んでいくかのように生々しく。
どこにもない仄暗い面白さが跳ね上がる今巻。画面の前の読者の皆様も是非読んでみてもらいたい。きっと見たことのない世界の扉が開ける筈である。