さて、男は恋をフォルダごとにわけて保存していくものであり、女は恋を上書き保存していくものらしい。では、画面の前の読者の皆様にとって忘れられない恋はあるだろうか。永く引きずってしまった恋はあるだろうか。
「新しい彼女できたら、良かったら教えてね」
恋人が出来たら一途に尽くすタイプの主人公、薙人。彼は中学卒業と同時にとある少女と恋仲になり、だが高校入学と同時にフラれたという妙な経歴を持つ少年である。
「・・・・・・さっきのことがあったので、その・・・・・・駅まで、一緒に行ってもらえませんか」
だが、春は出会いの季節である。失恋の痛みが残る彼は、級友である一人の少女を先輩の強引な部活の勧誘から救い、一緒に帰った事を切っ掛けに心通わせ、惹かれ合っていく。
「朝谷さんは、千田くんの『元カノ』ということでいいんですよね」
「今からは私が千田くんとお付き合いをするので、私が『今カノ』です」
そして、元カノと今カノが薙人を交え出会い、彼女の宣言により苛烈なヒロインレースは幕を開ける。『元カノ』の名は霧(表紙右)。高校生でありながらも芸能活動も頑張る、「のありん」の名で慕われる少女。『今カノ』の名は希(表紙左)。完璧な優等生であるが故に、少し周囲から距離を置かれる少女である。
ただの「友達」に戻ろうと一方的に告げて、彼の傷ついた心にも目を凝らさずに。けれど捨てた筈の心が痛む。希と接する薙人の顔を見るだけで、見せられなくなるほどに顔が歪む。
呼び方を変えてみたり、また守ってくれて心がときめいたり、ビデオ通話で思わず恥ずかしくなってしまったり。初めて知った気持ちと変化。それがどこまでも心地よくて。
「私、朝谷さんには絶対負けません」
だからこそ負けたくない。理解したい。彼女が何を思っていたのか。
「・・・・・・どの口で、って思うよね。こんなこと言ったら」
元カノの捨てれぬ気持ちを抱えながら、友達だからと仮面を使い分けて。甘える資格なんてないかもしれないのに、また彼の優しさに甘えてしまって。
揺れて惑って、捨てきれぬ想いと忘れられぬ思いは時に近づいたり離れたり。そんな思いを自分の元へ引き寄せんとするかのように、今生まれた思いは強く声を上げる。
「・・・・・・かなわないな。初めて見たときから、鷹音さんのこと好きになれないと思った」
「・・・・・・実は、私もです」
だけど、嫌いになれない。同じ人を好きになったからこそ、手を差し伸べてしまう。けれど好きになれない。何故なら二人は恋敵だから。同じ相手を好きになった好敵手だから。
それぞれの心の揺らめきにこれでもかと焦点を当て、緻密なタッチで描き出す。だからこそこの作品は切実さと等身大の感情の熱さと甘さを持っている。故にこそこの作品は面白いのである。
緻密な心理描写が好きな読者の皆様、ラブコメ好きな読者の皆様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
高嶺の花の今カノは、絶対元カノに負けたくないようです (角川スニーカー文庫) | とーわ, Rosuuri |本 | 通販 | Amazon