読書感想:人生∞周目の精霊使い 無限の歴史で修行した元・凡人は世界を覆す

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はもし、自分が生きてきた人生の中で一度だけ、今の自分のままで戻れるとしたらどうするだろうか。過去の自分が死んだりしたら一巻の終わり、そんな根本的な問題を抱えるとしても戻りたい歴史はあられるであろうか。

 

まず感想を書いていく前に、とりあえずこの表紙に注目してみてほしい。よくみると、表紙にいる四人中三人がよく似ていると、画面の前の読者の皆様は思われないだろうか?

 

それもその筈。何故なら、その三人は同一人物だからである。平凡な力しか持たぬも、世界で初めて時空を司る精霊、クロノスとの契約を交わす事に成功した精霊使い、その名はジレッド(表紙右下、表紙左上)。そして、彼の若き頃、今は未だ何の力も持たぬ少年時代、それこそがジレン(表紙右上)。孤児院の院長である育ての母親、シスター・ノア(ジレンの左隣)に育てられる未完の大器である。

 

精霊との契約には十年単位のリスクが伴い、強き精霊と契約する為にはそれこそ世代を重ね跨ぐほどの根気が必要。即ち、一代で精霊術を極めることなど到底不可能。

 

 だがしかし、ジレッドには一つの秘策があった。それは過去に転移し、幼き頃の自分を育て上げる事で、未来の自分である己を結果的に強くするという方法である。

 

過去に転移できるのは一人につき一回だけ。何度もやり直しなんて出来ない筈。だがそれすらも、己と過去の自分を融合させるという裏技で何度も繰り返す事を可能としていく。

 

そして幾度となく、幾度となく。数えて千年以上にもなる繰り返しと融合の果て、ジレッドは様々な者達と出会い、そして幾多の精霊と契約し従え、強さを増していく。

 

ある周回では、帝国軍との戦いの中へと乱入し危機に陥っていた精霊騎士、シルビアを救ったり。

 

またある周回では、召喚士養成学校に入学して力を示し、俊英であるエフィリーネに子作りを迫られたり。

 

更に戦争の先、入った研究所で異端の研究であった物理学を研究していたエルフ、ファノメネルの話から多大な気付きを得たり。

 

 

重力の精霊、雷の精霊。多数の見た事の無い精霊、そして四大精霊とも呼ばれる最強の精霊達。

 

その果てに待っていた、始原の精霊、否、神霊。遂に精霊使いの頂点を極めたジレッドは過去転移を取りやめる事を決め、ジレンの親代わりとして彼を好きに生きさせる事を最後に望む。

 

が、しかし。何か忘れてはいなかっただろうか。そう、この世界は力なき者は簡単に全てを奪われる厳しき異世界である。そして、ジレッド達が暮らす国には帝国の脅威がすぐそこに迫っていたのだ。

 

「そうか、よく分かった。死ね」

 

だが、脆弱な帝国軍。そして軟弱な精霊術士達など精霊術を極めたジレッドの前には何の障害にもなりはしない。

 

「クロノス。この世界は、滅ぶのか?」

 

だけど。幾多の歴史を変えうる行動をとり歴史に影響を与えても、歴史は何も変わりはしなかった。その理由は、この世界は遠からず滅びる事が決定しているからだ。

 

過去転移の経験上、あと十年は大丈夫。滅びゆく世界の中、ジレッドの手元に残されたのは過去の自分という最強の仲間と、孤児となった子供達と言う未完の大器。

 

そう、ここから本当の意味で始まるのだ。世界の崩壊を防ぐための、彼にしか出来ない戦いが。

 

この巻だけで言えば大河の源流、大きな物語の流れの始まりに過ぎず。だが、その分重厚で壮大な世界観を見せてくれて、心がワクワクするのがこの作品なのである。

 

大河的なファンタジーが好きな読者様、師走先生の作品が好きな読者様には是非読んでみてほしい。きっと満足できるはずである。

 

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