
さて、時に画面の前の読者の皆様の中には社会人、という方も多いであろうと思われるが、皆様は今務めておられるお仕事を辞めたい、と思ったことはあられるであろうか。転職したい、辞めたい。そう思われるからにはそれなりの理由はあられるであろう。しかし共通するのは、自由になりたい、という思いであるかもしれない。今の職場を辞めたい、自由になりたい。それは誰しもが抱く思い、であるのかもしれない。
という訳でこの作品は、主人公である「狩人」、ミッカネンが軍隊というくそったれな職場を辞めたいお話であり。ことごとく悪手を踏んでいくお話なのである。
「よくここまでもちこたえた」
人類と、その天敵である妖精が争い続けて千年。人類を数百年に渡り苦しめた「魔王」と呼ばれた四体の妖精は既に討伐され、人類は妖精を押し返し、敵の根城たる妖精の森にまで追い詰めて。そんな世界で、ミッカネンは部下たちと共に、「ゲッシュ」を刻み体に埋め込んだ「魔術炉」により魔法を用いる「狩人」の一人として。魔王たちを仲間と共に討伐した英雄として、最前線で戦い抜いていた。
「いつになったら休めるんだ!」
が、しかし。そんな英雄の内面は、戦場への嫌気、そのもの。彼は知っていた。前世の伝説のアクションゲーム「妖精たちの狩人」の世界がこの世界であるという事を。そして英雄なんて祭り上げられてはいるが、彼としては滅亡の淵に軍に入ったので戦い続けてきただけ。あと数年もすれば本編主人公が戦いを終わらせるだろう時間。狩人も増えたし、趨勢も安定している。故に、もう辞めたい。ではどうすればいいのか、と考えて。彼は思いつく。原作のとあるモブのように追放されればよいのだ、と。
「実は軍を辞めようと思っていてな」
が、しかし。ミッカネンは全然わかっていなかった。自分が今まで何を為してきたのか、どれだけの人をひきつけ、その心で希望となっていたのか、を。 部下であり天才的な魔術師、イスファーナ(表紙奥)に相談したら、手錠で繋がれ。 妖精研究の権威であるアルハンゼンに相談したら、解剖されかけ。更には軍所属の聖職者、イングラシウス(表紙右)に相談したら、彼女が暴走して妖精狩りへと出かけてしまい。慌てて彼女たちの心のケアに当たる事に。
何故ここまで彼女たちは動揺したのか。それは彼女達にとってミッカネンこそが希望、心の支えであるという事。イスファーナからすれば唯一の忠義をささげる相手、アルハンゼンにとっては自身の研究を最初に認めてくれた相手、イングラシウスにとっては信仰の象徴。
「僕が、君を追放してあげるよ」
実感していく、逃げられぬこと。そんな中、声をかけてきたのは戦友であるモルグレイド(表紙左)。いかなる手を使ったのか、上官である、異名「ガンギマリショタ」のアグラシュタインを説き伏せ、ミッカネン達はそれぞれ王都に転属となり。いきなり穏やかな時間に放り込まれる中、王都のラボに派遣されたアルハンゼンの元で知るのは、モルグレイドの正体。一人、妖精たちの生みの親である「大聖母」と決着をつけようとしているモルグレイド。
「断りも入れずに死のうとした馬鹿なメンバーを殴って帰ってこさせる、そのためにここにきた」
そのもとに駆け付け、殺され続け、戦い続ける為の魔法で復活し続け、モルグレイドの飢えを満たし。残る仲間たちも合流、向かうは「大聖母」の元。弱点である心臓がどこにあるか分からない、だがミッカネンは知っている。その弱点を命がけでつき、結果は痛み分け。
「このポンコツと結ばれたければ終戦まで軍から逃がすなと言っているのだ」
結果、やはり逃げられなくなる。逃がしてもらえなくなる。アグラシュタインに騙され記入させられた婚姻届けを人質に取られ、包囲網を敷かれるのである。
味方が主人公に対しとっても重い、ドロドロとした重めの愛があるこの作品。重めなお話を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
人類滅亡寸前ゲーム世界で自分を犠牲に敵を倒してたら、みんなが病んでいた 1 (オーバーラップノベルス) | 雨雲ばいう, motto |本 | 通販 | Amazon