
さて、現在地獄を舞台にしたアニメ「鬼灯の冷徹」が再放送されていたりするのだが、私はあのアニメは好きである。割とポップな地獄模様が楽しめるので。しかし、地獄と言ってもモデルの違いにより色々あるものである。罪を償えば天国に行けたりする場合もあるし、地獄に落ちたらもう脱出不可能、無に還るのを待つしか無かったりな場合もある。そして地獄、言い換えると冥界というのは国ごとに異なる様相を呈しているのである。
さてそんな地獄をある意味舞台にしている作品に、かの有名な小説、「蜘蛛の糸」があるのだが。この作品はそんな、「蜘蛛の糸」の要素が盛り込まれた作品なのだ。
繁栄を極めた文明を待っていた、陸地や海が徐々に5,000度以上の灼熱の大地に変わる、後に「地獄化現象」と呼ばれる異常事態。徐々に奪われる生存圏、現れるようになった獄鬼と呼ばれる化け物達。そこへ天の彼方から降りてきたのは、「雲の糸」と後に名付けられる一本の鎖。それに縋った人々により、作り上げられたのは空中都市カンダタ。だが、作られてすぐ、物語開始の120年前に発生した大反乱、その失敗により捕えられた者達は建造途中の下層に押し込まれ。安全な上層を守る為、使い潰される前提で「浄鎖」と呼ばれる力を持つ者達が鎖を伝い上がってくる獄鬼と戦っていた。
「あー、もしオレが神だったら、こんな世界一回ぶっ壊して、創り直すんだけどな」
その1人である防衛隊の四等兵、カイナ。上層を支配する超政府の局員の横暴に不満を漏らし、理不尽な目に気炎を吐き。だが政府には逆らう事も出来ず、ただ戦い続ける日々。だがそれを自身の「自由」と信ずる彼の胸の中、燃えるのは憎しみ。自身の兄を裏切り死に追いやって、自身は上層へ上がったジュデッカ(表紙)への消えぬ憎しみ。
「そうか。正しかったんだ。オレは、正しいことをした・・・・・・」
そんな彼の憎しみに蓋をしていたのは、親友であるトロメア。彼女の天真爛漫さと純粋さに、何処かカイナは癒され、冷静であれた。だがある日、任務の中で現れた上位の獄鬼、「閻魔」によりトロメアは殺されてしまい。怒りのままに閻魔をぶち殺すも、心は晴れず。
正しい事をした、自身にとって正しい事とは? 殺したい奴をぶち殺せる事。 なのに何故晴れない? 鬱屈した思いを抱える中、部隊の隊長であるアンテノラに反乱に誘われ、その話に乗ることに。
殺したい奴をぶち殺す、それが正しい。上層の奴等に反乱の牙を突き付ける、それもまた正しい。そう信じ、そう自分に言い聞かせ突き進む。だがそれは、悲しい決断。それは故郷を、家族を犠牲にする一手。 戻る場所を自ら斬り捨て突き進む乾坤一擲の一点勝負。その途上、辿り着いた上層でジュデッカと巡り合い、仲間達を先に行かせ激突へともつれ込む。
「あなたのことを愛しています。だから、私はあなたの全てを支配します」
その中で明かされたのは裏切りの理由。彼女の生きる意味、その歪んだ思い。カイナもまた歪んでいる、ジュデッカもまた。分かり合う事は出来ない、だから殺し合って。
「他人なんかに決めさせない! これがオレの本当の感情だ!」
「私たちの願いを断ち切らないで」
その最中、目覚めるのはカイナの歪みの本質、残虐性。復讐は果たされど満たされず、全て終わらせようとして。そこへ立ち塞がったアンテノラが示してくれたのは、皆の努力、そして信じると言う事。 暴走しようとしていたカイナの心に、鎖のように一本の芯が通り。誰の意思でもなく自分の意思で信じると決めて。 復讐を振り切り、未来へ進むのだ。
人の尊厳も命も軽く、世界はあっさりと捨てられる。まぁ何て、いい意味で凄まじい物語であろうか。本当に容赦ない展開、胸抉るような鮮烈さとヤバさ。だが確かに心に刻まれるものがあるのだ。そんな刻まれるものを見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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