読書感想:恋人以上のことを、彼女じゃない君と。 終

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:恋人以上のことを、彼女じゃない君と。3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、糸と冬、という文字が合わさって、終という漢字になるように。この作品も文字通り完結を迎える訳であるが。前巻の提案、冬からの提案を画面の前の読者の皆様はこうは思われなかっただろうか。言葉の根底は、彼本位であるな、と。果たしてそんな言葉が本当に、糸に届くのだろうか。その辺りも描いていくのが今巻なのである。

 

 

しかしそんな向き合いが、この二人がそう簡単にできるだろうか、という事だ。実際そう簡単に出来る、訳もない。やっぱり最後まで、まだるっこしくてもどかしいのである。

 

「これは、僕にしか分からない問題、なんだよな・・・・・・」

 

前巻の最後、冬からの提案の後、糸は連絡を絶ち。もどかしく焦燥感の募る日々が続く中、唐突に届いたのは糸からのメッセージ、唐突なリアル謎解きゲーム。それは冬しか参加者がいない、のではなく冬にしか分からぬ問題。当然である、謎かけのようなその設問は、二人の思い出の中に答えがあるものなのだから。

 

角が生えた馬とは何か、それはユニコーン、つまり二人で通った喫茶店。二度あることは三度ある、つまりそれはシーシャバーのマスター、リリーとのジェンガ勝負三連勝。花屋敷さんやリリーさんも巻き込まれていたそのゲームの中、彼女の本当の姿に迫る中。四問目、好きでも嫌いでもない場所にいる、という設問の意味が分からず躓き。更には糸は元の部屋から引っ越していて、両親でさえも連絡が取れぬという状況を知る。

 

「だから僕が、糸のことを一番知っている人間でありたいんだ」

 

「私ほど冬くんに、巨大な感情を抱いている女はいないってことだね」

 

垣間見たのは、糸の両親の歪み。きっと一生娘離れできぬ哀れな親。そんな親の実像を見た時、思い出す。好きでも嫌いでもない場所、その意味を。 その予感は正解、その場に隠れていた糸は冬の混じり気ない本心を聞き。愛憎入りまじる思いをより深め。偶々外出した先、まるで運命的に二人は再会する。

 

「冬くん。私にとってこの世界は、地獄なんだ」

 

今までのように、近い距離で。変わらぬ距離感に一時的に戻る中、遂に明かされる糸の本心。この世界は地獄、それはこの世界にとって当たり前の幸せ、それが彼女にとって分からぬから、その幸せがグロテスクだから。その思いに気付けず、冬の何気ない言葉はどれだけ傷つけていたのか。 最後に選ぶ選択の時、ならば何を選べばいい。

 

「僕は、糸の隣でいつまでも、どこまでも歩いていきたい」

 

選んだのは只一つ。当たり前、じゃないそれだけの事。ただ、それだけでよかったのだ、と。 世間の正しさから逃げ続ける、何処までも二人で。糸と冬、合わせて終になるのなら、その間に挟むものは何もいらない、という答えを。

 

それは世界からすればきっと、常識からしたらきっと、正しい事ではないのだろう。でもそれでも、それでいいと望んだ。この世界で二人きり、を愛憎抱えてそれでもと。だからこそ二人の関係は、ここに完成した尊さを持ったのだ。

 

逃げ続けた青春モラトリアム、その終着点を皆様も是非。

 

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