読書感想:ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた1

 

 さてこの世界には「推し活」という言葉がある。推しというのは心の栄養源であり、生きる活力となりうるため推し活というのはいいものである。だが日常生活に影響が出るまでやるのは違う、と思うので線引きは大切にしたい。それはともかく。画面の前の読者の皆様は「推し」がもし隣人であったら関わりに行くであろうか。それとも関わるなんて恐れ多いと、距離を取られるであろうか。その答えに正解はきっと、ないのかもしれない。

 

 

ごく普通の大学三年生、趣味は家事と推し事、困っている人には手を差し伸べずにはいられない。そんな青年、蒼馬の推しは二人。人気Vtuberのアンリエッタとアイドル声優、八住ひより。いつも通り推し活しながら気ままな一人暮らしの中、彼以外には住民がいないマンションに、一人の少女が引っ越してくる。引っ越し業者も帰ってしまい、荷解きに困る彼女を見過ごせず、部屋の家具の設置まで手伝う事となる。

 

「―――いや、お隣さんやないかい!」

 

 その日の夜、アンリエッタの配信を見ていて気付く。この背景の機材、お隣さんであると。お隣さんの少女、静(表紙)へとメッセージを送り間髪入れず突撃され。仲良くしたいと言う思いの元、これまで通りの付き合いを決めた矢先。まるで運命に導かれるかのように、八住ひよりこと支倉ひよりも同じマンションに引っ越してきて。気が付けば2人の推しと、ご近所付き合いが始まるのであった。

 

「これからさ、私も一緒にご飯食べたいんだけど・・・・・・ダメ、かな?」

 

「ねぇ、それって私も混ざっても大丈夫だったりする?」

 

間を置かずに判明する静の私生活の壊滅ぶり。家電選びから料理まで面倒を見た事で静の胃袋を掴んでしまい、更にそこにひよりも加えて欲しいとお願いしてきて。気が付けば2人の推しと食卓を囲む、彼だけの特権が成立する。

 

「―――お兄ちゃんも、そう思うよね?」

 

しかし、そこに加わってくる嵐、もとい爆弾が存在していた。その名は真冬。「工学部の撃墜王」との異名がある彼女は実は蒼馬を兄のように慕う幼馴染であり、やや(?)過剰な愛を今でも持っており。悪い虫を打ち払うべく、当然のように同じマンションへ引っ越してきて合鍵を貰っていく。

 

と、そんな感じで成立した「蒼馬界」と名付けられた集まり。ご近所同士で夕ご飯を囲む、和気藹々とした集まり。その中で蒼馬は静とひよりの本当の姿を見ていく。清楚で売っているけど生活力皆無な静の本性や、酒に酔うと豹変するひよりの本性を見て。憧れであったはずの存在が、どんどんと身近になっていく。

 

「―――蒼馬くんに会えてよかった」

 

そんな賑やかさの中で振り回され、時に手助けしたりして。その賑やかさが少しずつ大切になっていく。その新たな関係の中、新しい思いが芽生えていくのである。

 

正しく恋愛混沌四重奏、そう言わんばかりの独特なカオスさの中で真っ直ぐで仄かなラブコメが繰り広げられるこの作品。生活感のあるラブコメを見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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