さて、チェキやらポラロイドカメラ、写ルンですという言葉を聞いたことのある読者様は画面の前には少ないかもしれない。今や死語かもしれぬそれは、所謂インスタントカメラと呼ばれるもの。今の時代、皆様のお手元に基本的にあるだろうスマホである程度綺麗な写真が誰にでも撮れてしまう訳であるが。 写真撮影、と一言に言っても上を見ていけばキリがないものだ。 例えば撮り鉄の方々が時に構えているのは、バズーカか何かの仲間かと疑う位にごついカメラだったりする訳で。そこまで極めると、コストもとんでもなかったりするのだ。
さてそんな前書きから察していただけたかと思うが、この作品はそんな「写真」が繋ぐラブコメである。写真から始まる秘密の関係、のお話なのだ。
百年以上の歴史を持つ高校に通う、写真家である父親を持つ少年、巧。自身もまた人気モデル兼レイヤーの雪の専属カメラマンを務める中、もっと色々な人を撮ってみたいとちょっと不満なある日。
「うん、全然ダメですね」
「いい写真は撮れましたか?」
古い校舎、誰もいない空き教室で見かけたのは「学園のお姫さま」の異名を持つ級友の美少女、リノア(表紙)が際どい自撮りに挑戦している、という想像もできない光景。悪いとはわかっていても、その姿を見かけた時、直感的にその写真を撮ってしまい。その事実をリノアに掴まれた事で生殺与奪の権利を握られてしまう事に。
「私の恥ずかしい姿を写真に撮っていただけませんか?」
「自分の知らない自分、ありのままの自分が見たいんだろう? なら細部にまでこだわらないと」
だが彼女は何故か、自分の恥ずかしい姿を撮ってくれないか、とお願いしてくる。そして彼女自身、まだ知らなかった。巧が想像もできないくらい写真ガチ勢だと言う事を。単に写真を撮るのではなく、シチュエーションを完璧に演出するために小道具一つにもこだわり、リノアにも漠然と撮られるのではなく、被写体としてのイメージを要求してきて。
「別に勘違いしてもいいですよ、って言ったらどうします?」
衣装専門店の店長、猛にも二人で会ってみたりして。ある時は巧の部屋、またある時はお風呂場で。 際どい写真を、シチュエーションに準えて撮影していく中で。巧にリノアは少しずつ心を開き、彼にだけ見せていく。お姫様の素顔、人を揶揄う事が好きな小悪魔ちっくな一面を。
だが、共に居る中で知った事はもう一つ。それはリノアの姉、大人気モデルのアリスとの確執。 姉に対し憎み拒絶するような態度を見せるリノア。妹に親の期待を全て押し付けてしまった、と悔いを抱え続けるアリス。
「アリスさんも同じ気持ちなんじゃないかなって思ってさ」
雪の助言、そしてアリスとのタイマンでの向き合い。 姉妹の間に立ち、繋げるのは巧にしか出来ぬ事。 姉妹それぞれの思いを聞き、リノアの心の底の願いを引き出して。
「・・・・・・あぁ、そういうことだったのか」
例え着飾ったとしても、レンズを通してその目に映るはありのまま。けれどそれはリノアの望んだ事。 ありのままの彼女を写真に収めた時、理解する。一瞬の美しさを永遠に、という父親の言葉の本質。 お互い一歩ステップアップし、まだ秘密の関係は続くのである。
お姫様の自分しか知らぬ素顔、にドキドキさせられる、こそばゆくて堪らぬ甘さ溢れるこの作品。心擽るラブコメを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: こそっと恥じらう姿を俺だけに見せてくる学園のお姫さま (MF文庫J) : 雨音 恵, ゆきみや 湯気: 本