読書感想:落ちこぼれから始める白銀の英雄譚1

 

 さて、古今東西、今昔、人々それぞれの心の中に自分にとっての伝説のヒーロー、というものがいるであろう。それは仮面ライダーであるかもしれないし、ウルトラマンであるかもしれないし、プリキュアであるかもしれない。掲げるべき伝説、というのに正解はない。自分にとっての答えが自分だけの正解であるから。では、ヒーローになるにはどんな条件があるのであろうか? ヒーローというのは、如何にすればなれるのであろうか?

 

 

その答えもまた、一つではない。だが、ヒーローというのはきっと一人ではなれるものではない。支えてくれる仲間がいて、信じてくれる人達がいて。初めてヒーローというのは成立するのであるかもしれない。

 

「それに何度も言ってるだろ。俺は仲間なんて必要ないって」

 

日常生活に必要なエネルギー、デコイインクを胞子から生まれる怪物、ボーツが喰らい、魔獣と契約し変身する魔法戦士、「操獣者」達が平和を守る世界。操獣者達の街、セイラムシティを守っていたヒーロー、エドガーを養父に持つ少年、レイ(表紙左)。だが彼自身は、変身する素質を持たず「トラッシュ」と蔑まれ。同時に過去のある事件から誰も信じず、只一人でデコイインクを用いがむしゃらに戦いながらも魔武具の技師として生活していた。

 

「一目見た時から心に決めてました仲間になってください!」

 

そんな彼へと、声を掛けてきたのは新進気鋭のルーキーであるフレイア(表紙右)。彼の事を放っておけないとばかりに、何度もアタックしてくる彼女。そんな彼女に振り回されながらも、瞳の奥の闇は揺るがずに。レイは何度となく傷つき、幼馴染であるアリスに心配され、街を守る守護獣であるスレイプニルに危惧されながらも。只一つの事を追い求め、がむしゃらに突き進んでいた。

 

何に彼は拘るのか。それは、エドガーの死の真実。かつて発生したボーツの大量発生事件、その中でエドガーを手に掛けた謎の存在。だが真実は闇に葬られ、その事で心を凍らせ。彼は只一人、がむしゃらに真実を追い求める。その中で町を根底から揺るがそうとする、禁止薬物が絡んだ謎の存在、かつてからの黒幕の思惑に迫っていく。

 

「今のレイにはアタシ達がついてる」

 

今までであれば、嘲笑されるだけだった。誰にも信じてもらえなかった。だが、アリスとフレイア、その仲間であるライラは自分を信じてくれた。彼女達の手を借り、黒幕の策への対処を任せ。自身は因縁の場所で黒幕と向き合うも、圧倒的な力の差にあっという間に絶体絶命、死を覚悟していく。

 

だが間一髪、間に合ったフレイア達がレイを守るために立ち向かう。その姿に、その心に。忘れていたものを思い出したレイへ、スレイプニルは問いかける。

 

「ヒーローとは、魂の在り方、生き方そのもの」

 

―――父を超えるとは如何なる意味か。それは誰かを信じる事、弱さを認める事。ray、一筋の光のように輝くその魂の名こそが証。ならば、目覚めよ、その魂。彼を認めしスレイプニルの元、父親の魂は確かにレイへと継承される。

 

「誰かが見てる、誰かが知ってくれてる。だからアンタは一人じゃない」

 

そして彼は、一人ではない。仲間がいる。そして今までがむしゃらに突き進んできた中、気付かなかったものがある。信じて愛してくれた人たちがいる。共に並ぶ者がいる、背中を押して支える者がいる。

 

ならばどこまで未熟でも、それは確かにヒーローの姿。ならば負ける理屈は、何処にも存在しないのである。

 

火傷しそうなくらいに熱く、真っ直ぐな優しさに心震えるこの作品。正に面白い。打ち震えるような、突き刺してくるものがあるのである。

 

心燃やしたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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