読書感想:パルパネルは再び世界を救えるのか

 

 さて、勇者は割と旅の果てに魔王、又はそれに類する存在を殺す事が目的になる訳であるが。世界を脅かす存在を殺した後、当然世界は平和になる訳で。そうなれば勇者はどうなるのか。その力を危険視され幽閉されたり暗殺者を差し向けられたり、というバッドなパターンもあるであろう。姫様、もしくは仲間やヒロインと結婚し幸せに暮らした、というハッピーなパターンもあるであろう。だが確かに言えることは一つある。それは平和な世界、になったのなら。もう勇者の出番はない方がいい、という事だ。

 

 

ではこの作品における勇者、パルパネルはどうなるのか。それをこれから見ていこう。

 

 

異世界のとある大陸、その西から東へと破竹の勢いで勢力を広げ、今や大陸の半ば以上を支配している「西の王」。大海の竜王、空山の覇王、闘界の王、境界の王という名だたる王たちを従え、「魔王」とも呼ばれる存在。

 

「なぜ僕がおまえを恐れないといけない?」

 

その玉座にて刃を突き付けるパルパネル。彼の姿は凡そ勇者、とは言えぬもの。使い込まれた革鎧、砂塵まみれの外套、ありふれた長剣。おまけに人間界で有名な仲間達は傍らにおらず、一人きり。しかし彼は何故か西の王を恐れず。分体を仕込まれていた四王は討伐したと証拠を見せつけ、呆気なく西の王を討伐する。

 

「不老不死ですか? いいですよ」

 

その帰り道、彼の元に現れたのは神の遣いである天使(表紙中央)。神様からご褒美がある、と言われて半ば冗談と確認交じりに不老不死を願ったら、あっさり叶ってしまい。飛び降りてみても死ねず、かつて蛙に変えて封印した不死の霊王、アルダモート(表紙上)に殺してみてくれと言ってみて本気で呪いをかけてもらうも、やっぱり死ねず。

 

「答えが欲しければ、自ら見いだすがいい」

 

何をしても死ねず、一先ず天使をもう一度呼び出し神の元へ殴り込みをかけ、どうも最初から不老不死を与えるつもりだったらしい、という事だけわかり。地上に戻ってきたら何故か、天界に戻れなくなっていた天使もいて。 人里離れた山奥で三人?で生活を始める事に。

 

「他にやることもないし・・・・・・」

 

他にやる事もないから、のんびり、と。髪の毛が伸びすぎてしまう程の時間をかけて、住まい一つ作るのにも試行錯誤しながら。そんな中で、かつての仲間である暗殺者の訪問を受けたり、仲間であった聖職者が自分を暗殺に来て、激突する事になったり。

 

「いったい何を差し出した?」

 

その中で旧知の仲である王子の言葉により明かされるのは、討伐の真実。全てを一斉に討伐するのに何を差し出したのか、という答え。

 

「僕はただ自分の身を守っただけだ。世界を救おうだなんて、これっぽっちも考えなかったよ」

 

差し出して死ぬはずだった、だけど不老不死になったから死にきれず。そして彼は、変わらない。その精神性は勇者、ではない。ただ自分の身を守ったら、世界を護っていただけ。ある意味狂っている、かのようなその在り方。

 

「帰ろう。僕らの家に」

 

そんな所も変わらず、不老不死だからかのんびりと。 時々世界の危機に立ち向かわされたりしながら生きていくのだ。

 

何処かのんびり、しかし時にピリッと。そんな独特なファンタジーを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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