さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「不老不死」という概念についてどう思われるであろうか。不老不死、言葉の響きだけ聞けば素晴らしい言葉なのかもしれない。しかし、実際はロクでもない事なのかもしれない。終わらせたいと思っても終わらせる事が出来ず、永遠の時間、というのは実はその内きっと飽きがくるものであり、人と同じ時間を生きれない、というのはきっと、いつか孤独に苛まれる事になるであろう。そう考えると、限りある命だからこそ、命は良いのかもしれない。
さて、ではこの前置きは一体どういうことなのか、という事であるが。題名にもある通りこの作品のヒロイン、紅葉(表紙)は「不老不死」の異能を持っている。そこから、彼女が事件に巻き込まれる事になり始まるのである。
部員が三人しかいない文学研究会の一員、晴麻。彼の通うクラスに転校してきた紅葉。偶々日直であったが故に放課後、学校を案内する事になり。雑多だけれど落ち着いた文学研究会の空気を気に入ったのか、彼女も研究会の一員となる事となり。日本生まれ日本育ちのアメリカ人、カルバンやちょっと毒舌な自称名探偵、蜜柑といった他の部員とも仲良くなる。
だが、ここからいきなり状況は動き出す。案内の途中、体育館の用具室から響いた悲鳴に駆け付け、そこで見つけたのは級友である笹村の死体。女性ものの下着を握り、密室であった室内で死んでいた、という密室殺人の事件の秘密を研究会の仲間達と共に探り始めるも、今度は更に密閉度を増した密室で紅葉が殺され。しかし彼女は、あっさりと何事もなかったように生き返る。傷もなく。
それは何故か。それは彼女が父親から受け継いだ「不老不死」の異能を持っているから。そして、晴麻もまた異能を持っている。彼の異能は「時間遡行」。様々な制限は有ながらも、キスを引き金に過去へと戻る異能である。
その異能を用い、晴麻は過去に戻る、何度も。助けて欲しいと願った紅葉を救う為に。
用具室の密室のトリック、不可解にかかっていた鍵。握られていた女性ものの下着、被害者が過去に持っていた経歴。
さて、ここからはネタバレとなるであろうなので、明言は避けていくとして。この作品は分りやすく図解もあるので、画面の前の読者の皆様も是非に謎ときに挑んでもらいたい。以下、ヒントは記しておこう。
女性ものの下着、それに惑わされてはいけない。それだけで疑いの目を向けてはいけない。
紅葉に襲い掛かった凶刃、その密室が出来たのは、決して必然ではない。
そして、犯人は登場人物の中にいる。彼等のすぐ側、牙を隠し持っているのである。
「相棒みたいな存在だな」
そんな事件の真実に迫る中で。異能を持つ二人の絆は、探偵とその相棒と言う枠組みの中で近づいていくのである。
骨太で頭を使わせてくれるミステリが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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