読書感想:この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した1

 

 さて、ネット小説の王道のジャンルの一つとして「追放もの」、というものがあるのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。王道の流れに沿うならば、追放された主人公が実は有能であり、追放した悪役側が落ちぶれていく、という事になるのが普通である。だが最近、少しずつ追放する側の視点で描かれた作品も生まれてきている。そんな作品で描かれるのは、決して考えなしではなく、やむを得ない理由のある追放である事も多い。

 

 

この作品もそんな、「追放する側」のお話である。そこにどんな事情があるのか。それは追放という悪を為す事で、踏み台とならねばならない事情があったのだ。

 

魔王という悪しき存在が、魔物と魔族と呼ばれる存在を自ら作り出し魔王軍として組織し、聖剣に選ばれた「勇者」のジョブを持つ者が、魔王と戦う旗頭となるとある異世界。かの世界において、十歳となった子供達に「神官」から与えられる「神託」という、要はジョブ認定の儀式。

 

 この日、名もなき辺境の村に住む少年、フォイル(表紙右)は「勇者」の称号を得、幼馴染であるメイは「魔法使い」、ユウは何のジョブも得られなかった。だが勇者として祭り上げられる中、フォイルだけが気付いていた。自分の本当のジョブは「偽りの勇者」であり、「真の勇者」であるユウの踏み台となるべき存在だという事を。

 

こんな事ならば、勇者に何てなりたくなかった。いつまでも仲良く、暮らしていたかった。だが、ジョブが導く運命は始まってしまった。故にもう戻れない、進むしかない。ならばせめて、悪となろう。悪人として、真の勇者に討たれるべき存在であろう。

 

ユウを理由をつけて旅の仲間に加え、メイも仲間に加え、更に仲間が集い勇者パーティが結成され。だがジョブを持たぬユウが蔑まれるのを歯噛みしながら見る事しか出来ず、勇者の名の元に仲間の思いは暴走を始め、聖剣が黒く染まり始め。頃合いだと予定通りユウを追放し、ほどなくして真実は明かされフォイルは討つべき悪として認識され追われる身となる。

 

「良いんだ。これは俺が選んだ未来だ」

 

それもまた、ジョブの通りに。彼の望み通りに。最後にユウに聖剣と共に希望を託し、彼の手にかかる事で。フォイルは確かに死を迎えた。

 

「誰が何を言おうと、わたしにとっての勇者は貴方なのです」

 

迎えた筈であった。だが、彼を助けた存在がいた。その名はアイリス(表紙左)。かつてフォイルが助けた数少ない存在であり、勇者の対となる「聖女」。だが彼女は、フォイルの事を認めた。彼女にとっての勇者は、彼だけであると言ってのけた。幾多の押し付けられた否定の中、得られた唯一の肯定。それに救われ、何物からも解放され。アヤメと名を変えたフォイルは、アイリスと共に新たな旅に出る。

 

「今の俺には、誰にも負けない熱い意思がある!」

 

「勇者」にはなれない、だけど職業なんてなくても身に着けた技は、この身に残っている。特別な力など無くとも、意思の力は誰にも負けない。勇者でないなら、誰かを救える者、「救世主」になれる。 世界各地を脅かす魔族達との戦いへ、フォイル改めアヤメは向かっていくのだ。今度こそ目の前のもの全てを守るために。

 

心震える熱さのある、真っ直ぐな友情のあるファンタジーが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。