読書感想:リセット彼女がラブコメを思い出すまで



 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は「記憶」という要素が密接に絡む作品と聞かれて何を思い出されるであろうか。因みに私のお勧めは「プラスティック・メモリーズ」と「博士の愛した数式」という作品である。何れも感動できる作品であるので、是非とも多くの読者様に触れてみてもらいたい次第である。という前置きはさておき、実は「記憶喪失」という状態とは一口で言っても、その状態と症状には千差万別があり、思い出せぬと言っても本当に忘れた状態、という訳ではないのである。

 

 

という前置きから察していただけたであろうが、この作品においては「記憶喪失」という状態が重要となってくる。そして「記憶」というのが今作品のテーマなのである。

 

「それでもスゴいです。お声を掛けてくださって、助かりました」

 

始まったばかりの華の高校生生活、しかし中学時代のトラウマからもう恋はしないなんて決めていたはずだった。しかし、小説を書くのが趣味な少年、海斗はまるで天使の様に可憐な少女、詩乃(表紙)と出会い、恋に落ちた。正にとーんと来るように、転がり落ちる様に。恋に落ちたのである。そんな彼の事を、詩乃の幼なじみである少女、綺羅もまた認め。彼女のアドバイスを受けながらも、彼は詩乃の心をつかむために日々、もがいていく。

 

「すみません彼氏と言われても困ります」

 

 努力は実り、詩乃の心をつかむことに成功し。だが浮かれる年相応の心はすぐに、絶望に叩き堕とされる事となる。不慮の事故により頭を打ってしまった事により、詩乃の記憶は失われてしまったのである。

 

失意の中、綺羅に励まされ彼女の居場所を守る為に今までの生活を続けることを決め。時に余計な事を吹き込まれた詩乃が自爆的な一言を放ってしまったりする中。何かを引き金に、詩乃の記憶は消えたり復活したりする。

 

「黙ってようと思ったけど、無理だった。ごめん」

 

そのきっかけとなるのは何か。それは今まで隠されていた綺羅の気持ち。海斗の事を応援する間、いつの間にか気付かぬ間に芽生えていた気持ち。その思いを目撃し、詩乃の心の中に浮かんでいた一つの思い。それは「あの日」、三人で笑い合っていた日への思い。

 

「過去の関係に戻りたいんじゃなくて、俺は今の詩乃と、未来へ進みたい」

 

彼女がついた「嘘」、しかしそれは海斗もまた見破っていた。けれどそれでも、彼は詩乃と共に居たいと望んだ。過去に縋るのではなく、今の生温い関係を敢えて終わらせ。未来へ進む事を選んだ、それが最善であると信じて。

 

その先、待っていたのは新たな始まり。だがそれは、果たして望ましい物なのか。

 

どこか儚くて切ない、思春期の思いが交錯する刃のような今作品。鮮烈な作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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