読書感想:ミミクリー・ガールズ

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は「擬態」という言葉をご存じであろうか。昆虫の中には様々なものに擬態する種類もあるが、人間の中にも狂人の内面を善人の皮を被って、善人に擬態している者だっているかもしれぬ。私、「真白優樹」とて「真白優樹」という名の皮を被っているだけで、中身は普通ではないのかもしれぬ。無論そんなことは無いのだが。しかし、人間は何を秘めているのかは中々に分からぬものなのである。

 

 

人間は皆、自分と言う対外的にそう見える皮を被ってそう生きる者なのだとしたら。人間とは、自分とは一体何なのであろうか。そんな哲学的な話題はさておき、「擬態」、そして「自分」というワードがこの作品においては重要となるのである。

 

2036年の近未来。様々な要因が重なり第三次世界大戦が巻き起こり、その中で人命尊重の質を重視する戦争が繰り広げられる中、再生医療は大きく発展を遂げ。更にその先にかの合衆国は禁断ともいえる技術を開発した。その名は「ミミック」、人工素体技術。脳と脊髄だけを取り出し人口の身体に入れ替えるという、禁忌から始まる技術である。

 

「なに、どうせ着替えれば済む事さ」

 

技術的な不安定さやメンテナンス性などの観点から、主に特殊部隊に用いられるその技術。その技術の恩恵に、ゴリス、もといクリス大尉も今回もまたあやかる筈であった。

 

「・・・・・・わっつざふぁぁぁぁぁぁっく!?」

 

 しかし、手術の後に彼は驚愕する事となる。その理由とは何故か今までの成年男性型ではなく少女型の義体に入れられ「クリスティ」(表紙)というコードネームを与えられていたから。驚きも束の間、彼の元へと大統領であるジョン・スミスから極秘任務が言い渡される。

 

それは謎の国際犯罪組織、「バル・ベルデ」に狙われ新たなヴェネツィアの街で孤立した娘、メアリーを救出すると言うもの。他の仲間とは現地合流と言う命令にきな臭さを感じながらも、彼の新たな任務は幕を開ける。

 

彼の新たなチーム仲間となるのは三名。前時代からのたたき上げであり近接戦闘のエキスパートであるウッディ五等准尉、少女名「マーリン」。

 

孤児院育ちの寡黙なる狙撃手、ガブリエル曹長。少女名「ジブリール」。

 

元人口義体の研究者でありマッドサイエンティストの関係者、ルシアノ技術少尉、少女名「ルーシー」。

 

彼女達と共に、ヴェネツィアの町でマフィアを相手にしドンパチを繰り広げ。更に豪華列車で陸路で逃げ出したかと思えば戦争中毒者の傭兵部隊に襲撃され。何とかメアリーと共に脱出し森の中を進み、途中で出会ったJBと名乗るナードに車に乗せてもらい、先に進む。

 

 全ては順調にいっている筈だった。・・・だが、忘れてはいけない。この作品は「擬態」という言葉が重要であるという事を。何とか味方であるクリスのかつてのチームメイトとの合流も束の間、「マイセルフ」と名乗る黒幕が現れ全てを覆す。とっくに自分と言う物を見失っていた、裏切り者達と共に。

 

攫われたメアリーを必ず取り戻さねばならぬ。任務は未だ続いている。

 

「今まではやられっぱなしだったが今度はこっちが攻める番だ。さあペイバックタイムだ!」

 

決戦の舞台となるのはアイスランド。世界大戦で核により汚染された森でぶつかり合う、裏切り者とクリス達。そして明らかになる、とある謎。ヒントとなるのは「ジョン・スミス」という名。この名が持つ意味を考えてみてほしい。

 

すちゃらかな奴等がドタバタと、賑やかに鉄火場を走り抜けていくこの作品。思わず笑えると共に心が燃える。甘いばかりの作品に飽きた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ミミクリー・ガールズ (電撃文庫) | ひたき, あさなや |本 | 通販 | Amazon