読書感想:いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。

 

 さて、今さら言うまでもないがこの私、「真白優樹」というのは読者の皆様が見られている「キャラクター」である。中身の私とは、自分で言うのも何だが、似て非なる部分も多い。ではこの「真白優樹」というキャラクターはどう作られているのか。私が意識的に作っている部分と、読者の皆様からの認識で出来ていると言っても過言ではないであろう。

 

 

そう、「キャラクター」を形作るものの一つは、「認識」と言える。このキャラクターはこうだ、という認識。だけどもし、そのキャラクター自身に意識があったとしたら。押し付けられるその認識は、どう思うのだろうか。この作品はそんな「キャラクター」と「葛藤」というものが重要となるお話なのだ。

 

十五歳の時に、一人の少女の為に作ったVRのキャラクター、「響來」。それを預けられた少女、俐乃(表紙)は「響來」を演じ。四年の時を得て、女性タレントである「境童話」として活躍する彼女とは裏腹に。その生みの親である青年、成央は専門学校に進学し、足踏みの日々を続けていた。

 

「堕落しやがって」

 

画面越しに彼女を見る事しか出来ず、心に残った棘が痛む日々。そんな日々に突然やってきたのは、響來。どう考えてもおかしい、悪夢か夢か、否、現実だ。二人の事を堕落した、という彼女は俐乃に会わせろと言い。会って三人で鍋を囲んだら、彼女に俐乃の「境童話」というキャラクターは奪われてしまう。

 

本当の自分を保証するのは、今自分が状況に合わせ演じているキャラだけ。それを奪われ俐乃のキャラクターがあやふやになる中、彼女と成央はぶつかり合い。あの時から何が変われたのか、何かから解放されたのかと思いをぶつけ合う。

 

そう、「変化」である。あの時演じていた「キャラクター」を捨て、「変化」したのは「成長」とも言えよう。しかし響來にとっては、「堕落」であるらしい。彼女の真意も掴めぬまま、成央のキャラまで奪われて。さらに混乱が深まる中、ひょんな事から二人は彼女の真意に迫りだす。

 

 

本当に「キャラクター」は奪われたのか? 奪われた、という事実を別の言い方に置き換えて。そこから見えてくるのは、「響來」という「一人」の願い。彼女もまた、如何なる存在かは分からずとも、今確かにこの世界に生きている。その願いを叶える為には、あの日の続きが必要で。文字通りに皆の力が必要なのだ。

 

「だから、今日、ちゃんと伝えに来た」

 

全員の力を合わせ、辿り着くのは役者の揃う大舞台。胸から絞り出すのは、全部の言い訳を超えて、今までの自分を認めて、全ての葛藤を込めて。何を犠牲にするとしても、という願いを込めたただ一つ。

 

「ならせてほしい」

 

その願いの先に、彼女の願いはかなって。そしてあの日、伝えられなかった願いを伝えて。一人がまた二人になって歩き出していくのだ。

 

 

「キャラクター」を巡る「葛藤」の中でうじうじとして、だけど何処か熔けるように熱い青春の情動が溢れている今作品。瑞々しい唯一無二の青春に触れてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。 (ガガガ文庫 ガよ 3-1) : 詠井 晴佳, 萩森 じあ: 本