読書感想:はぐれもの最強空間魔法使いは嫁と静かにスローライフしたい

 

 さて、「空間移動」と聞いて「白銀」という単語を連想された読者様は恐らく、オタクの中でも古の部類である。しかし空間移動、つまりは空間魔法に類するものをもし使えたのならば、皆様はどうされるであろうか。一体どんな事に使われるであろうか。

 

 

画面の前の読者の皆様からすれば様々な使い方が思いつかれるかもしれない。ではこの作品の主人公である半魔族の青年、ランドロス(表紙中央)は一体どう使おうとしているのだろうか。

 

 その答えは只一つ、簡単な事。それは「嫁」である少女、シャル(表紙左)の為に全てを捧げようと戦っているのである。しかし彼女は未だ「嫁」ではない。厳密に言えば、ランドロスの片想いなのである。

 

人間と魔族が相争う、王道な展開をなぞるとある異世界。かの世界の勇者パーティの一員として戦いながらも仲間達に裏切られ、全てを奪われ。野に紛れ暮らす中、彼は馴染みの商人の訪問を受け、半魔族でも暮らしやすいと言うとある国を紹介され、そちらへと出向くことになる。

 

 かの国においては、確かに人間も魔族も共存していた。国に聳える巨塔の探索を行う探索者として、国に迎え入れられ。早々に彼はクルルという少女を主とするギルド、「迷宮鼠」に迎え入れられ、探索者としての人生を始めていく。

 

今まで知らなかった、人間を信ずるという事。誰かと共に、本当の意味で冒険すると言う事。はぐれ者達が集まるギルドの中、元勇者パーティの一員でもあったランドロスの力はすぐに頭角を現し信頼を集め。人間ではあるが信頼できる後輩、カルア(表紙右)にも恵まれ。更には商人の手引きにより、彼を訪ねてきたシャルとも再会を果たす。

 

「この世のどんなものよりも、世界のすべてよりも、君が好きだ。結婚してくれ」

 

かつて届けた告白、その思いは未だ心の中に焼き付いている。そしてシャルは今、自分が所属する孤児院の経営難に困っている。ならば、助けるべきだ。多くは助けられずとも少なくとも、一つくらいは。だけどそれでも多くを、出来れば全てを望みたいから。シャルの住まう国へ向かい、ランドロスは馴染みの商人とカルアと共に、救うための算段を整えていく。

 

 しかし、それをよく思わぬ者が教会騎士達を刺客とし、襲撃を仕掛けてくる。その裏で糸を引くのはかつての仲間。彼等を突き動かす、戦いの原動力とは何か。それは「愛」。不器用で時に歪んでいて、けれど根は真っ直ぐで。だからこそぶつかり合うしかない。二つの愛は貫き通せないから。

 

「怖くないです。嫌いにならないです」

 

そして、こんな自分でも愛してくれる人がいる。好きでいてくれる人がいる。だからこそ無限の力が湧いてくる。どれだけだって戦えるのだ。

 

はぐれ者が居場所を見つけ、愛を得る。そして「自分」になっていく。どこか矛盾がありウラオモテがある、そんな人間らしい者達の愛が溢れるこの作品。心を温かくしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。