前巻感想はこちら↓
読書感想:霜月さんはモブが好き - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻で私はこの作品を辛くて苦い、鮮烈な感情が交錯するラブコメであると評したわけであるが、皆様は覚えておいでであろうか。実際の所、こちらの作品は昨今の流行である甘さを前面に押し出したラブコメとは一線を画する、激突の苦さと辛さがあるのは確かである。そんな中で主人公である幸太郎とヒロインであるしほは未だ恋人まで発展せずとも確かな絆を結んだ訳であるが。果たしてこのラブコメはここから、平和なラブコメ路線へと転換していくのだろうか。
そう思われた、もしくは危惧された読者の皆様はどうかご安心していただきたい。何故ならば次なる嵐はすぐそばまで迫っているからである。
その嵐の名は、異国からの転校生である少女、メアリー。資産家の娘であり天才的な頭脳を持ち。そんな彼女は「クリエイター」を自称し、幸太郎に告げる。自分は龍馬にもっと「ざまぁ」をしたい。この駄作めいたラブコメを自分の手で作り変えて見せると。
しほの平穏を盾に半ば脅迫めいた形で協力させられる事となり。しほの為に変わりたいと願う幸太郎は、メアリーの駒として躍らせられながらも彼女を逆に物語へと落とし込む新たな一手を練り始める。
だが、彼が見つめなければいけないのはメアリーと龍馬の偽りのラブコメだけではない。龍馬に奪われたヒロイン達の一種の清算もまた、同時に行わなければならぬ。
ぶつかり合い話し合い、梓とは和解することが出来た。だが、まだ足りぬ。次に向き合う事となるのはキラリ。かつて幸太郎の友人であり、龍馬に惹かれ彼の為に変わってしまった少女。
「お前の人生を、物語を、誰かの手に渡すなよ」
それは折しも時節となった文化祭、クラスで行う事となった演劇のように。仮面をかぶり、被り続ける事で自分を見失ってしまった彼女。そんな彼女を、幸太郎は敢えて悪役の仮面をかぶり突き放し。いっそ切り刻むかのように彼女を傷つけ、蹴り飛ばすかのような荒々しさで自分に怒りを向けさせることで彼女を立ち直らせていく。
それは正に道化師の行い。舞台の端で目立たず踊りながら、気が付かぬ間に自らの舞台へと変えていく静かなる繰り糸が如く。メアリーが目論んだ舞台を軋ませ、幸太郎が脚本を書いた舞台へと変えていく。
「わたしはね、あなたが思っている以上に、幸太郎くんのことが好きなの」
そんな、自分が傷つく事も厭わず踊る彼を止めるのは誰か。それは勿論、彼の「ヒロイン」であるしほの役目である。彼に仮面を外させ、優しく愛を告げ。大きな愛で飲み込み受け止める事で。彼を肯定し、隣に立つ事で。しほは彼の事を支えていくのである。
前巻よりも一段と、苦みの効いた描写があり。だからこそしほとの初々しいラブコメが更に甘さを持っている今巻。
前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。