読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない

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 さて、この世界には「探偵もの」というジャンルが存在している。その最も有名なものはシャーロックホームズシリーズ、と答えられる読者様も多いであろう。そんな探偵たちも近頃は多様性を見せている。銃片手に鉄火場を潜り抜ける探偵もいれば、事件が始まる前に全てを解き明かしてしまう探偵だっている。時は令和、既に探偵とは事件を解くだけではなくなっている感がある訳である。

 

 

 

では、この作品の探偵であり「霊能探偵」を名乗る藤花(表紙右)は一体、どんな探偵なのであろうか。

 

 彼女は死者の声を聞き、無念の内に死した死者の霊を呼び寄せる。だが、彼女は事件を解決しない。人間の業が生み出した凄惨な事件に、因果応報の結末を齎すだけである。

 

彼女の家である「藤咲」の家は、異能の血を継ぐ一族であり、万能の力を持つ「かみさま」が支配する家。しかし、「かみさま」の死による次代の選定の中で藤花は不適格の烙印を押され、従者となる筈だった青年、朔(表紙左)の家で社会と関わる事を拒み、ニートとして生活していた。

 

 そんな彼女の元に、霊能探偵を頼りにし定期的に持ち込まれるのは、ヒトの業が起こした凄惨にして一種の凄艶さを持った事件の数々。

 

SNSを賑わせた「天使の自殺」事件に端を発した、殺された人間の臓器を抉り出しそれを降らせる猟奇的事件。

 

有名な小説家の娘からの招待状、そこに映されていた本物の骸骨が導く事件。

 

かつて幽霊が見えたと言う保育士の相談が呼び出す、痛ましい過去が秘められた事件。

 

そして、かつての「かみさま」の候補者達が次々と害される事件、そして「かみさま」自身が依頼してきた、自身を殺した犯人を見つけてほしいと言う過去の事件。

 

 全ての事件、その裏に垣間見えるは人の狂気、人の業。だが、同時に見えるのは「愛」。そう評するしかない、誰かから誰かへの思い。

 

それはまた、朔と藤花も同じ。本来の形ではなく、ただ何となく。けれどまるで呪いのように。お互いがお互いしかいないと、まるで依存するかのように並び立ち、何でもない日々を過ごしたりしながらも歩いていく。

 

「ずっと、一緒に歩いておくれよ・・・・・・約束だよ」

 

「ああ、約束だ」

 

 だからこそ、最後の最後に全ての始まりの真実、その裏に隠されていた「彼女」の想いが明らかになっても。二人は共にいる事を選び、夜闇の中へと歩き出していく。例えいつか死ぬとしても、それでもずっと側にいたいと。過去を乗り越え「かみさま」のいない世界で。一寸先は闇の未来の中へと歩き出していく。

 

そこにあるのは「業」であり、「愛」なのだ。

 

綾里けいし先生の十八番である凄惨さとその中に秘められた独特の愛、その鮮烈さに目を奪われるこの作品。

 

綾里けいし先生のファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない (ガガガ文庫 あ 17-1) | 綾里 けいし, 生川 |本 | 通販 | Amazon