読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない4

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 地獄を巡って、人の業を次々と目撃して。その果てに目覚めてしまった、山査子家の力の源であった「神様」。世界に文字通りまき散らされるのは、破滅の呪い。というのは前巻までを読まれた読者様であればご存じであろう。では、世界の終わりが刻一刻と始まって、殺意が世界を包んでいく中で。朔と藤花は最後にどんな時間を過ごすのだろうか。

 

 

しかし、世界の終わりが来ているから、といって人々はそう簡単に変わるのであろうか、と言われるとそんなことはない。寧ろ、最後の時と言う事で、より人の業が解き放たれて。より人の業が生み出した地獄が顕現し、これで最後と言わんばかりにそれぞれが秘めていた願いや望みが晒されていくのが今巻なのだ。

 

「しかも、その殺意は伝染する」

 

伝染を始める殺意、それは全ての生物を狂わせていく。終わりがひたひたと迫り、徐々に世の中が混乱に陥る中。朔と藤花の前に持ってこられるのは、この期に及んでも変わらぬ人の業。

 

「予言」を生業とする「安蘇日戸」の当主。彼が望んだのは、狂った男に銃殺された妻に会いたいと言う願い。末期の願いとなるそこに隠されていたのは、無自覚なる殺人。

 

久しぶりに戻った二人のアパート、そこで見つけた久しぶりの依頼。猫を探してほしいと言う依頼は、集団自殺をしようとしている父を止めて欲しいと言う依頼に変化し。その生活の場に広がっていた、解き放たれた欲望による惨劇は、予期せぬ力により望まれた惨劇へと変わる。

 

その先に待っているのは、藤咲本家への帰宅。もはや「神様」を封じる時間はない。だけど、殺す事なら出来る。「神殺し」を為すため、藤咲の家の「かみさま」の力を借りる事となり、その役目を藤花が担う。

 

その行いに待っているのは、一種の贖罪。かつて殺してしまった神を、その異能で蘇らせる、それは正しく彼女の死を招く。それでも、彼の生きる世界の為に。だけど怖さは止められない。

 

ならば怖くとも、自分が代わりとなろう。彼女と、彼女の生きる世界を護るため。だがそれは、今度は彼の死を意味するもの。本当にそれでいいの? と「かみさま」は問いかける。対して返す彼の答えは、否。やっぱり本当は生きていたい。彼女と一緒にこの世界で。

 

「俺は幸せだ」

 

その願いを「かみさま」は聞き、世界は救われた、ああ確かに。だけどそれは、彼に一つの業を背負わせるものだ。それでも彼は選んだ。例え世界全てを引き換えにしても、好きな人と一緒に居たいと。

 

終幕後、そこにあるのは背負った業が導いた景色。それは果たして幸せなのか。

 

 

その答えは、皆様が是非考えてみて欲しい。

 

Amazon.co.jp: 霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない (4) (ガガガ文庫 ガあ 17-4) : 綾里 けいし, 生川: 本