読書感想:魍魎探偵今宵も騙らず

 

 さて、人魚や件と呼ばれる存在は魑魅魍魎と呼ばれる類であるが、画面の前の読者の皆様はそういった存在は、ゲゲゲの鬼太郎かぬ~べ~辺りで知られたタイプであろうか。また常世とはあの世、地獄とも呼ばれる域でもあるが地獄と言えば、鬼灯の冷徹という読者様はどれだけおられるであろうか。という話題はともかく、常世というのは簡単に言えば別の世界であり、決して交わらぬ、交わってはならぬ世界である。

 

 

その理由は言うまでもないだろう。この作品はそんな二つの世界が交わってしまった現代日本を舞台に描かれる作品なのである。

 

いきなり常世と現世の境界が失われ、二つの世界が交わり、更には国外との断絶もあり早十年くらい。人間と妖怪の戦争なんかもあって、混乱を超えてやけくそ期と呼んでも差し支えぬ時代。常世が発展した科学を厭う性質を持つせいで、文明が衰退、荒廃し終戦直後くらいの状態で。そんなぶっ壊れた世界でも、人間は逞しく生きている。そして妖怪と人との間には、「騙り」が横たわるようになった。

 

「これより、『謎解き編』に入る」

 

「これより、今宵は『語り』の時間で」

 

そんな「騙り」を妖怪が絡む事件の中で集める、一人の青年と少女の影が夜の中に在り。青年の名はトヲル(表紙左)。又の名を「魍魎探偵」。少女の名をユミ(表紙右)。狐の血を引く、空三味線を弾く少女。彼女の朗々とした歌声に合わせ、騙りを暴き、真実を語り。騙りと執着を切り捨て、その身に集め。彼等は夜の闇から闇へ、事件の中を歩いていく。

 

 

とある家族に食われた「人魚」からの手紙。とあるサーカス団にいる、予言があまり当たらぬが何故か長生きしている「件」の謎。 山間の村に出没する、「山姥」と「鬼」の謎。 二度と訪れられぬ筈の、迷い家の主の「謎」。

 

そこにて語られるは「魍魎」の在り方。決して人には理解できぬ、しかしそれそこが幸せという彼らの生きる意味。人と同じように想い、願い、愛する思い。

 

その真実を炙り出して語り、騙りを集め。だけどトヲルもまた、「騙り」をしている。それは共にいる、因縁深きユミとの関係。

 

そこにあるのは、因縁深いからこそお互いを知り、その身を慈しみ合う二人の思い。疲れたからこそ終わらせてほしい、それを終わらせたくはない。神の掌の上で転がされる、二人の思い。

 

「これより、今宵は『騙り』の時間で」

 

だけどそれでも愛したから、生きていて欲しいから。彼は敢えて踏み込んでいく、一世一代の『騙り』、終わりの禁忌へ。

 

 

「『魍魎探偵』、皆崎トヲルよ!」

 

 

でも、まだ終われない。神様が敢えて残酷に許して全てを奪って。また二人、手をつないでの旅が幕を開けるのだ。

 

 

とんとんからりと、何処か寂れた、寂し気な空気の中で独特のお話と感情が語られるこの作品。不思議な気分になってみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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