読書感想:弥生ちゃんは秘密を隠せない

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 さて、この世の中には超能力なるものが主に創作上の世界に於いて存在するわけであるが、画面の前の読者の皆様は超能力を一つだけ得られるとしたら、一体どんな能力が欲しいであろうか。因みに私はテレポート能力が欲しい。あると便利な気がするので。

 

 

そんなちょっとくだらない前書きはさておき、何故今回はこんな話となっているのか。それはこの作品における主人公、皐月がそんな能力の一つであるサイコメトリー能力を持っているからである。

 

そして、その力こそがこの作品の物語の扉の鍵を開けるきっかけとなるからである。

 

高校二年生と言う一度しかない一年が始まり少しした頃。クラスの中での人間関係も少しずつ纏まり、様々な面が見えてくる頃。

 

「皐月くん、かっこいい・・・・・・」

 

 そんなある日、彼はクラスメートとの偶然の接触から心揺らされる事となる。接触の相手、それは級友でありいつも無愛想で孤高な弥生(表紙)。しかし、自身のサイコメトリー能力で聞こえてきた心の声は、何処か甘く自分への好意を連想させるものであったのだ。

 

そこで止まっていれば良かったかもしれぬ。だが能力は更なる秘密を炙り出す。それは彼女が裏の世界に生きる、エージェントである事を。

 

だが、彼も知らぬ舞台裏。彼女の心の内で語られるは、皐月に感じる謎の感情。心が叫んでいる思い。そして、裏家業の中で生きてきた自分と本当の自分の間の望み。その乖離に戸惑う自分自身。

 

「皐月先輩だったら、お姉ちゃんの心を開くことができると思うんです」

 

その事実に気付いていた皐月の妹、卯月のお願いにより皐月は不器用に、時に微妙な言い訳をしながら彼女と向き合っていく。

 

 サイコメトリー能力を使うのではなく、自分の意思で。何度拒絶されても向き合おうとする皐月に心が徐々に絆されていく中、弥生は彼の心の傷、そしてトラウマに触れる事になる。

 

半年前、卒業生の凱旋公演。自分が得意だったピアノでの失敗。そこで聞こえてしまった心の声から生まれたトラウマ。

 

その音は、誰にも届いていない。そう思っていた。

 

「だから、失敗とか思わなくていいんだよ。私には届いていたから!」

 

だけど、それは違った。確かにあの日、自分の音は弥生の心へと届いていた。響いていた。

 

その音を、熱を返すかのように弥生の不器用な演奏は、彼女の音は皐月の心へ届き。トラウマを越え、一歩踏み出す追い風となる。

 

「当たり前だよ。俺、ピアノ得意だから」

 

そして今、再び響くその音は。復活の音色となるのだ。

 

超能力から始まる、両片思いでじれったい、だけどお互いとのかかわりを通じて大切なものを得ていく。温かくて甘く、優しくて爽やか。そんなラブコメであるこの作品。

 

温かなラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

弥生ちゃんは秘密を隠せない (ガガガ文庫 は 6-9) | ハマ カズシ, パルプピロシ |本 | 通販 | Amazon