読書感想:五人一役でも君が好き

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 さて、五等分の花嫁ことごとよめ、と呼ばれる作品をご存じであられる画面の前の読者様も多いであろう。かの作品は社会的現象となり、一大ムーヴメントを巻き起こした作品である。そんな作品においても、主人公は五人のヒロインの中から最後は一人を選んでいた。その流れは、多数ヒロインもののラブコメの終着点として、真っ直ぐに王道であると言えよう。

 

 

そしてこの作品も、五つ子であるヒロインが登場する。ではそんな五つ子のヒロインが、主人公を取り合う、そういう流れとなるのだろうか。

 

 そう思われた画面の前の読者の皆様、その考えは甘い、とだけお伝えしたい。もしそう思われたのなら、壱日千次先生の作風についてそこまで知らない、と疑わざるを得ない。

 

壱日千次先生の作風の特徴、それはどこか頭のネジが外れてぶっ飛んだ主人公と個性と癖の強いヒロイン達。

 

そんな先生の作風の極致がこの作品であり、正に壱日千次先生ワールドの傑作と呼んで差し支えないのである。

 

かつてはスポーツで名を馳せ、けれどケガで挫折し周囲に裏切られ。挙句の果てには林間学校で肥溜めに落下し。正しくついていない主人公、大河。

 

 彼を唯一救ってくれたのは、生徒会長にしてあらゆる分野で完全無欠の少女、知佳(表紙中央)。まるで天使のようなその姿に一目ぼれし、彼女の傍にいる為に夏休み明けには総合成績三位まで成り上がり。が、しかし。千佳の補佐として彼女に付き従う中、彼はふとした切っ掛けから彼女の秘密を知ってしまう事となる。

 

意識して髪型を変える事でモードを切り替えるかのように、様々な得意な分野を見せる彼女。その姿は偽り。五人の姉妹が協力し、それぞれの得意分野を分担し見せていた姿だったのだ。

 

勉強担当の知佳は長女。運動担当の次女、楓子(表紙右下)。演技担当の四女、舞姫(表紙右上)。優しさ担当、五女の愛(表紙左下)。SNS担当、三女の光莉(表紙左上)。

 

 本当に好きになったのは誰なのか。自分が好きになったのは幻像だったのか。普通の主人公であるならこう悩むかもしれない。が、しかし。壱日千次先生の描かれる主人公がそんな平凡な事で悩む訳がない。

 

好きになったのは誰か、そんな事は関係ない。じゃあ全員彼女にしてしまえばいい、ハーレムを築いてしまえばいい。何を言っているのかと思われるかもしれないが、これが彼の思考である。

 

その為にならばどうすべきか。その道筋に至る為のロジックは既に脳裏に。現実的にハーレムを築くための方策の為に将来の為に勉強しながら。

 

時に心理戦をしかけ、時に許すという演技さえ行い騙し。翻弄されるどころか翻弄し、手を変え品を変え篭絡しようと暗躍する。

 

「アタシは嫌いじゃないぜ」

 

道の先、判明する衝撃の事実と破壊される作戦。だがそれで止まる大河でもなく、改めてハーレムを作ろうとバクシンオーが如く進んでいく大河。その心は、確かに姉妹の一人の心を揺らしている。

 

 こんな主人公、果たして画面の前の読者の皆様は見た事はあられるだろうか、私は無い。かつてここまで、真摯かつ正直に自身の欲望の為に邁進する主人公がいただろうか。

 

けれど、その欲望は何処までも真っ直ぐであり、純粋な好意から。

 

なればこそ、彼の背を叩いて応援したくなるのだろう。ナイスな欲望じゃないかと呵呵大笑してしまいたくなるのだ。

 

昨今の平凡な主人公、振り回される系主人公。そんな彼等に挑むかのように、個性に極振りした主人公、大河の人物像。

 

だが、故にこの作品は面白い。正にラブコメ界に新たな風を齎してくれると期待したくなる。

 

見た事のないラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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