読書感想:きみは本当に僕の天使なのか

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 アイドルという存在がいる、職業がある。多くの人を魅了するスターであり、舞台の上で輝きを見せる、誰かの希望となる人達がいる。だが、そんな人達もまるで、輝きが尽きたと言わんばかりに消えていく。まるで閃光のように、一瞬だけ傷を刻み込んで消えていく。

 

 

 画面の前の読者の皆様も聞いた事がどこかであられるだろう。アイドルと呼ばれる人達が起こした不祥事のニュースを。アイドルだってただの人間。見られている偶像と隠した実像は違うもの。 けれど、それはまだ氷山の一角に過ぎないのかもしれない。我々が知らないだけで、アイドル達がその身を躍らせる芸能界と言う舞台はとんでもない闇に満ちているのだから。

 

 画面の前の読者の皆様、その点を踏まえていうと、この作品は「闇」である。この作品の感想の前に上がっているだろう「君は僕の後悔」と比べるとまさに闇。生々しいまでの闇が蠢く芸能界、そんな世界へアイドルと一人のファンが戦いを挑んでいく作品なのだ。

 

過去の経験から女性恐怖症を患い、推したアイドルは悉く引退し。まるでそういう体質であると言わんばかりに色々背負い込むアイドルファンの青年、優羽。彼は、最後に一人だけ信じたいと推しているアイドルの少女がいた。

 

 彼女の名は麗(表紙)。「完全無欠」と噂される、一部の隙もない完璧なアイドルである。

 

「あんたの推しアイドルが来てあげたんだから、もっと喜びなさいよ」

 

そんな彼女の姿は、単独握手会の後。何故か彼の家にあった。

 

探偵まで雇って押しかけてきて。彼女の目的は一体何なのか。

 

「君さ、あたしの彼氏になってくんない?」

 

その口から告げられたのは、唐突な爆弾発言。しかし、その発言の真意は打算。

 

 彼女の目的、それは「復讐」。かつて自分の相方であり、努力を認められず上役たちの仕事の道具にされかけ春を売らされかけた女性、杏樹。彼女を貶めた者達を追放する為、敢えて自身にスキャンダルの疑惑をかけ、自身を囮にするために。彼女は優羽に目を付けたのである。

 

その理由、それは彼がアイドルとしての自分にしか恋をしていないから。だからこそ信じられるから。

 

半ば強引に、まるで口説き落とされるかのように。協力関係を結び、否応なく巻き込まれていく優羽。

 

「アイドルはタバコ吸わないしお酒飲まないと思ってた?」

 

突如始まった仮初の同棲生活の中、知っていくのは彼女の人間としての素顔。酒も飲むしだらしないし。とてもじゃないが完全無欠とは思えぬ、素顔の姿。

 

そんな日々の中、麗にとうとう舞い込む上役からの指名。マネージャーである真央の心配をよそに、飛び込んでいこうとする彼女。

 

 それを行かせるのが協力者、だがそれは本当に正しい事なのか? それは自分に対する「裏切り」なのではないか?

 

「君まで、僕を裏切るのかッ!!」

 

涙と共に溢れ出した優羽の本心。自分が縋った夢を捨てるな、否定するな。失敗するかもしれない手を取るな、最後まで自分の願いを叶えてくたばれという、エゴに満ちた叫び。

 

 その言葉は麗の奥底、最初の思いを目覚めさせ。冷静になった彼女へ優羽は告げる。自分の作戦に乗れと。

 

切り札はゴシップ記者、善治から齎された証拠だけ? 否、切り札は彼女。全てを飲み込み、自分に向けられる熱狂へと変えられる彼女だからこそ、全てを利用する形こそが望ましい。

 

その作戦の先、見える景色は是非、自身の目で確かめてみてほしい。

 

生々しさと、一種の熱さみなぎる反逆の物語を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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