読書感想:異世界で生き抜くためのブラッドスキル

 

 さて、サバイバルと言うのは様々な環境で成立するものである。例えば熱砂の砂漠でも成立するし、極寒の北極圏でも成立する。何なら孤島でも成立する。けれどそんな環境にいきなり放り込まれたとして、果たして生き延びれる人間と言うのはどれだけいるのだろう。そう考えてみると、異世界転移系なお話もリアルさを突き詰めてみればサバイバルとなるのかもしれない。例え転移した時にチートな力を得ていたとしても、大体転移するのは一般人の青少年であり。例えば魔物が出てくるような異世界で生き抜く心構えが簡単にできる訳もないので。

 

 

と、そういった前置きから察していただけたかもしれないがこの作品は異世界で「生き抜く」、つまりサバイバルする作品なのである。あまりにも何も持たぬ等身大の子供達がそれでも藻掻いていくお話なのである。

 

最後の記憶は修学旅行で乗った飛行機のエンジンが火を噴いた光景。薄ぼんやりとした記憶の揺らぐ中、目を覚ましたのは見知らぬ路地裏。同じ高校、同じクラスの級友であるアキラ(表紙中央左)、ミユキ(表紙上)、八尾谷(表紙左上)は三人で見知らぬ街を彷徨い。偶々飛び込んだ血液を売買するという謎の店で、見た事もない銅貨を手にし、一先ずは食料にありつく。

 

「この世界で生きるなら、ルールに従うしかない」

 

三人に声を掛けてきたのは、リヴと名乗る吸血鬼。彼女は語る、ここは死んだ者達が辿り着く世界であり、人は吸血鬼に血を提供する代わりに吸血鬼は傭兵となり、魔物から人間を守ると言う約定の元に成り立つ世界であると。そしてアキラ達外の世界からの来訪者はこの世界の菌に対する抗原が無く、ほっといても二日くらいの命であるという事を。

 

元の世界には戻れない、生きる為には吸血鬼となって魔物と戦うしかない。だけど怖いものは怖い。吸血鬼になると血によって得られる力がある、だが血を得る機会は一回のみで後から変えられない。いきなり事実を押し付けられ迷う中。アキラはこの世界に来ていた阿夜(表紙中央右)という少女と再会する。盲目であった彼女を助け少しだけ深めた仲、けれど自分が原因とも言える事故で亡くなってしまった彼女。そんな彼女はパーティとの不和により帰還率二割を切る任務に送られそうになっていると知り。そうしようとしているこの世界の人間、タリサに異を唱えるもそれが逆鱗に触れ。腹いせとして暗殺者の血統、ニザリの拠点に叩き込まれその力を得る事となってしまう。

 

「―――だって俺たち、友達だろ?」

 

それでも、彼は阿夜の為に共に行くことを望んだ。たとえその先が地獄だとしても構わない、一人で行かせたくはない。何が出来るかなんてわからない、そもそも覚悟もありはしない。だけどそれでも、と。それぞれ別の力を得た八尾谷とミユキも共に行く事を決め。心を動かされたタリサも謝罪の後に仲間となり。五人パーティとなり彼等は、困難な任務へ挑む。

 

常闇の街の近くに広がる森の中、潜むはゴブリンの氏族と増え続ける不死者。共に事故に巻き込まれた者達とも再会する中、任務は始まり。強力な傭兵による指揮がある事で安定した筈だった任務は一つの崩壊で地獄へ変わる。

 

正に地獄の阿鼻叫喚、どれだけの力を持っていても、死神の選別は運次第。大混乱の中、それぞれが命を賭けて誰かを生かそうとしていく。

 

それでも誰も失いたくない、皆で生きたい。

 

「ならば生きよ」

 

そんな彼の足掻きを認めた真祖の影は最古の力を授け。最も速き影となり、彼は戦場を駆け抜けるのである。

 

まるで運命という濁流の中を舞う木の葉のように。翻弄され振り回され、それでも生き抜かんとする。そんな生々しい生の息吹が、泥臭くとも熱いこの作品。鈍くとも輝く作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

異世界で生き抜くためのブラッドスキル (講談社ラノベ文庫) | 火狩 けい, 上埜 |本 | 通販 | Amazon