読書感想:夢見る男子は現実主義者4

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前巻感想はこちら↓

読書感想:夢見る男子は現実主義者 3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 二学期が始まると思ったか? あれは嘘だ。そんな言葉は聞こえてきていないがそれはさておき、再びの夏休み編であり、言わば後編である今巻。さて、一体何を描いていくのかというと答えは一つ。前巻でバイト先の同僚となった級友、一ノ瀬さんとの関係である。

 

「で、できるようにしますから! やめさせないでくださいっ!」

 

古本屋バイトという職業にはあまりにも似合わなそう、というか適性的に考えても微妙そう。思わず正論をぶつけてしまい泣かせてしまい、あまつさえ土下座させてしまい。罪悪感に攻撃を受けながらも、とりあえずバイトの同僚として働く事になる渉。

 

激しい後悔に苛まれながらも、先輩として関わらぬわけにもいかず。しかし一体、どうやって接したらよいのか分からない。

 

「―――悪いのはあんただけじゃないわよ」

 

そんな彼の助けとなるのは、この作品のメインヒロインである愛華に他ならぬ。二回目の夏川家への家庭訪問。そこで若干強引ながらも聞きだされた、騒動の顛末。

 

「”明日その子から話を聞く”。それがあんたの罰よ」

 

与える予定だった罰を引き合いに出され、手荒ながらも激励され。渉は一ノ瀬さんと向かい合う事を決める。

 

 向かい合えば、初めて見えてくるものがある。気の弱くて大人しい彼女の素顔が。決して折れぬ、その心に一体どんな芯が秘められているのか。

 

「―――・・・・・・兄離れ、したくて」

 

甘えたくても甘えられぬ兄がいる。だからこそ大きくなりたかった、甘えなくても良いくらいに。

 

「一ノ瀬さん、普段からそうやって顔出した方が良いと思うけどな・・・・・・―――は?」

 

長い前髪の奥の向こう、誰よりも魅力的な一輪の花、可愛らしく奥ゆかしい笑顔がある。

 

知れば知るほど、放ってはおけなくなってくる。先輩と後輩として、何より仲間として。力になりたいと思うから。

 

「―――それが全部無駄になるなんて、納得できるわけねぇだろ」

 

だからこそ、渉はまた誰かのために立ち上がる、奔走する。共に働いた一か月は決して無駄ではないと思うから。簡単には失いたくなかったから。

 

 ひと夏の出会いと経験は、渉を成長させる一歩となり、一ノ瀬さんを渉へと引き込む風となる。それで面白くないのは誰か、無論愛華である。

 

気が付けば彼の周りには沢山の女の子がいる。それを見ているともやもやする。それを自分に問いかけてみれど、答えは返ってこない。

 

今も尚、自覚に至らぬその想い。だが萌芽の時は、きっともうすぐそば。その想いが芽生えた時、愛華はどんな景色を見るのか。

 

前巻を楽しまれた読者様、やっぱりもどかしいラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:才女のお世話1 高嶺の花だらけな名門校で、学院一のお嬢様(生活能力皆無)を陰ながらお世話することになりました

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 さて、執事×お嬢様と言えば某ハヤテのごとく! 身分差ラブコメと言えば、某乃木坂春香の秘密。という答えであるかはさておき、身分差のある相手とのラブコメというのは画面の前の読者の皆様にとってはどうであろうか。お好きであろうか。

 

両親にバイトで稼いだお金も、自分の学費も全て持って蒸発され、天涯孤独となってしまった男子高校生、伊月。

 

借金を背負わせられてないだけマシかもしれないが、未成年の男子高校生にとっては危機的状況に他ならず、全てがどん詰まりに陥ると言っても過言ではなく。

 

「私、この人が欲しい」

 

が、しかし。その出会いは運命か、必然か。天国への招待状かはたまた地獄への片道切符か。大財閥の令嬢、雛子(表紙)の誘拐事件に巻き込まれた伊月は、フィーリングで生きている彼女のたっての希望により、彼女のお世話係として雇用される事となる。

 

日給二万、住み込み、衣食住保障。好条件にしか見えぬそのお仕事の内容は、雛子の「お世話係」。学校では完璧な美少女を装ってはいるが、その実はすぐに寝てしまうし服を着替えるのも面倒くさがる、生活能力皆無のぐうたら者の雛子の、いわば従者である。

 

 彼女の側にいる為に、詰め込まれるように様々な知識や武術を教え込まれながら。身分を偽る形で雛子と同じ学校へと転校した伊月を待っていたのは、文字通りの違う世界。そしてそんな世界で生きる子供達に背負わされた、本人の意思とは関わらずの重荷。

 

子供である前に歯車であり、家の道具である。その為に生きなければならぬ。だからこそ自分には被れぬ仮面も無理して被る。故にこそどこか孤独に、拠り所もなく。

 

 そう、文字通り住む世界の違う伊月と雛子はある意味で「似た者同士」である。どちらも親からの愛に飢え、家族の愛に飢えている。だからこそこの二人は出会った、そう言ってもいいのかもしれない。

 

伊月だからこそ雛子に齎せた変化と成長がある。雛子だからこそ伊月に与えられた、大切な事がある。

 

「今は・・・・・・伊月が傍にいない方が、嫌」

 

確かに変わりゆく雛子の心。伊月を失いたくないと言う、初めての思い。

 

「もう二度と演技をやめない。いつでも、どこでも、完璧に演じてみせる。だから・・・・・・お願い。伊月と一緒にいさせて」

 

だからこそ、彼がいなくなるかもしれないという危機に、雛子は初めて気炎を上げたのだ。「家」の為なんかじゃない、「彼」の為に仮面を被って見せると啖呵を切ったのだ。

 

「私・・・・・・なんか、変・・・・・・」

 

 その心に確かに芽生えたのは、今は未だ名もない感情。だがその感情に「名前」が付いた時。きっとその世界はもっと鮮やかに色付きだす。

 

癒しがあって、ラブがある。そんな優しさ溢れるこの作品、ラブコメ好きの全ての読者様にお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:俺がピエロでなにが悪い!

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 ピエロと言えば? トロワ・バートン。そんな答えが咄嗟に出てきてしまう私はガンダム好きなのか、はたまたおっさんの域に踏み込んできているのか。それはともかく、ピエロと聞くと、どこぞの悪役が思い浮かばれる読者の方もおられるかもしれないが、どんな印象があるだろうか。彼等は笑顔の仮面の裏、自らの思いを隠しながらも自らの役割のままに踊る。自らの役を演じながらも、その振る舞いで笑いを届けているのである。

 

「―――イッツ、ショータイム!」

 

ショーの始まりの声が上がる時、ぼっちはピエロとして舞台に躍り出る。

 

将来の夢はストリートパフォーマー。そんな夢を抱きながら、月二回ホスピタル・クラウンとして子供達に芸を披露する少年、樹(表紙右)。彼には最近、一つの悩みがあった。

 

 それは、何故かいつも一人だけ。入院中の少女、茉莉だけが笑ってくれないという事。どうしたら笑ってもらえるのか。悩む彼はふと、ここにいるのは意外な者の顔を目にする。その名は愛莉(表紙左)。学校一のギャルと言われる関わり合いのないクラスメートである。

 

危うく身バレしそうになりながらも、何故彼女がここにいるのかと首を傾げ。それで済むかと思ったのも束の間、勉強も何もしない彼女をみかね、注意した事から彼女に勉強を教える事になってしまう。

 

 そして始まる二人の交流。その中、樹は知る事になる。愛莉というリア充グループにいるように見える少女の事情と内面を。彼女と茉莉の関係を。

 

必死に不安を押し殺し、周りに無関心を装って。茉莉は強がっていただけなのだ。必死に自分を強く見せようとしていただけなのだ。

 

 その姿に重なるのは、事故で両親を亡くし塞ぎ込んでいた過去の自分。だが、あの時の彼は一人ぼっちではなかった。彼の心に寄り添い、笑わそうとしてくれた一人の「ピエロ」がいた。

 

『人を励ますために僕がいるんダロウ? 一緒に戦わないト、ってネ』

 

容体急変により危機に陥る茉莉、塞ぎ込み樹に当たってしまう愛莉。そんな二人を前に今、立ち止まっていてどうする。今こそあの日のピエロのように、背を押してくれた言葉と共に。

 

「―――先生。ありがとうございました。おかげで目ぇ覚めました!」

 

 ならば今こそ笑いを。あの日のピエロに自分がなる。そして樹は舞台に上がる。イッツ、ショータイム。あの日くれた、今も尚自分の心に熱く燃える魔法の言葉と共に。

 

さりげない温かさと、己の夢に真っ直ぐだからこその熱さ。そんな二つの要素が並び立ち、まさに魔法の時間のように輝いているこの作品。気が付いた時には、この世界に引き込まれているかもしれない。

 

人の心の温かさが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

俺がピエロでなにが悪い! (講談社ラノベ文庫) | 白井 ムク, 塩かずのこ |本 | 通販 | Amazon

 

読書感想:聖剣士さまの魔剣ちゃん3 ~主のために頑張る魔剣を全力で応援しようと思います~

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前巻感想はこちら↓

読書感想:聖剣士さまの魔剣ちゃん2 ~主のために頑張る魔剣を全力で応援しようと思います~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

リーシュカワイイ、リーシュ尊い。以上、感想終了、証明終了。

 

という訳にもいかないので、上記の通り簡単に済ませてしまっても良いかもしれないがそうは問屋が卸さないため、今巻の感想を書いていきたいと思う。

 

が、書き始める前に一つ前置きをしておきたい。この作品はシリアスが息をしていない。シリアスをしようとしても、結果的にシリアスになりきれぬ。ドタバタなコメディの展開が待っている。だがそれはここまで読んできた画面の前の読者の皆様であれば、もうお分かりであろう。

 

折れた魔剣、セレスタの復活を目指す為、カギを握るかは知らないが何かを知っていそうなのは謎多き全身鎧の幽霊?美女、ハワワ。彼女への接触を目指し、いつもの街を飛び出し向かうは行楽都市、ヴェルミア。

 

 言ってしまえば、高級リゾート。様々なレジャーが楽しめる環境が整っているいつもとは違う、完全に遊ぶための場所。もうお分かりであろう、今巻は水着回であり、相も変わらず可愛いリーシュにケイルが更に悶えて人の範疇から踏み外していく巻なのだ。

 

「お二人が異常な盛り上がりを見せ始めました」

 

道中、罰ゲームで犬耳をつけられたセリスとお揃いでうさ耳をつけたリーシュに、セリスと二人で大盛り上がりしてみたり。

 

「殺伐とした砂浜に、突然天使が現れただと・・・・・・ッ!?」

 

プライベートビーチで水着を披露したリーシュに、挿絵があったら劇画調になっていてもおかしくはないくらいのリアクションを見せたり。

 

 そんな中、道をふさいでしまった益獣、百合好きモグラのリスモールのふとした一言が、新たな真実の一端へと繋がる。かつてのリーシュは怒っていた、何故なら魔剣が奪われたから、と。

 

正しく、人間世界に根付いた聖剣の伝説を覆すであろう過去の真実。一体誰がそれを為したのか。その昔話の一端に関わるは、古き時代から生きてきたハイエルフ。セリスのお師匠、モーヴィス。

 

セレスタの片割れを所持していた因縁の敵。普通に考えればこの後、シリアス展開であろう。だが、この作品に限ってはそうはならない。何故なら、誰もシリアスなんか望んでいないから。

 

『とりあえずわたしの気が済むまでボコボコにして欲しいです』

 

「わかった。それがリーシュの望みだったら叶えるよ」

 

最愛の魔剣ちゃんがそれを望んでくれるなら、後は怒りのメガトンパンチをお届けするのみ。更にはリスモールまで乱入し、ドタバタの中で決着をつける。

 

だが、それでよい。この作品はこれだからこそ良いのだ。

 

前巻を楽しまれた読者様、お気楽ファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

聖剣士さまの魔剣ちゃん 3 ~魔剣ちゃんは常にかわいいので、今回はハイエルフに注目していきます~ (HJ文庫) | 藤木わしろ, さくらねこ |本 | 通販 | Amazon

 

読書感想:エイス大陸クロニクル ~死に戻りから始める初心者無双~

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 さて、死に戻りと言えばリゼロであろう。が、元来の「死に戻り」と言えば何であろうか。死に戻り、それは死んだらセーブした地点まで戻る事。元来RPGゲーム等でよくある展開である。

 

そしてゲームは、普通に考えれば最初は「はじまりの街」的な場所から始まるものであり、一歩ずつレベルアップしていくものである。

 

 では何故こんな話をしたのであろうか。それはこの作品が「はじまりの街」から始まる、訳ではないからである。

 

幼い頃から仮想現実が存在していた、少しだけ近未来の日本。

 

その片隅の何処かに住まう少女、杏子(表紙右側)は幼い頃から仮想現実の世界で遊び回っていた子供である。煩わしい人間世界、そんな世界に囚われる事無く閉じた世界でひたすら格闘に耽る。そういう生活を繰り返してきてしまったが故に、現実世界の生活で支障をきたすまでになってしまった子供である。

 

平たく言えばぼっち、コミュ障。それを見かねた母親によりオンラインゲーム以外を禁止され、CMを見てやりたいと引き込まれたVRMMORPG、「エイス大陸クロニクル」をプレイしたいとお願いし、正式サービス初期勢の一人、ハズレ職業の魔剣士、アンズ(表紙左)としてデビューする。

 

だが、予期せぬトラブルが開始早々彼女を襲う。予期せぬバグにより、高レベルモンスターひしめくダンジョンが初期地点になってしまい、リスポーン地点を登録してしまったせいで脱出不可能になってしまったのである。

 

が、しかし。当然ながらアンズはそれを知らぬ。これがチュートリアルなんだと誤解したまま、必死にダンジョンで生き抜いていく。

 

 すると一体、どうなってしまうのか。その答えは明白であろう。一人だけ高レベルダンジョンで生き抜いている、つまりは強くなれる。それこそ攻略組のトップクラスを軽く生き抜いていく程に。

 

 

何とかかなった脱出、順番があべこべだけど初めてきた「はじまりの街」。そこで初めて出会う、自分以外のプレーヤー。目つきの悪いプレーヤー、オガミとの距離が掴めずに怯えたり、お姉さん系のプレーヤー、黒羽に可愛がられ色々教えてもらったり。

 

初めてプレイするオンラインゲーム、それは正に未知の経験。時に呆れられたり、時に驚かれたり。そんな中、ふと気づくと自分の心が変わっている。今までは一人で良かった。なのに今、誰かを求める自分がいる。

 

「・・・・・・例のダンジョンを出て、まだゲーム内で一日。さぁ、私の攻略はこれからだっ!」

 

 そして、自分が一歩踏み出したからこそ初めて出来た友達がいる。だからここが本当の始まり。最強だけど最強じゃない、そんな彼女の冒険はここから始まる。

 

勘違いものが好きな読者様、ちょっと曲者な主人公が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:常勝魔王のやりなおし2 ~俺はまだ一割も本気を出していないんだが~

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前巻感想はこちら↓

読書感想:常勝魔王のやりなおし1 ~俺はまだ一割も本気を出していないんだが~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を楽しまれた読者様であればこの世界に置ける勇者の子孫達の外道さはご理解していただけているであろう。そんな外道ばかりが暴虐をまき散らす世界で、一体何をすれば良いのか。

 

それもまたご存じであろう。勇者の資格を持つ少女、ユウナに「勇者の試練」を受けてもらい、真の勇者であったミアを復活させる。その目的はあるけれど、果たしてどうすれば良いのか検討もつかぬ。

 

 そんな訳でジーク達魔王一行が辿り着いたのは、錬金術師達が集う街、アルス。だがしかし、この地を支配するのも勇者の末裔の一人、ミハエル。自らを「天才」と名乗る錬金術師である。

 

古今東西、今も昔も「天才」と名乗る悪役は大概にして外道である。というのは画面の前の読者の皆様もお察しではないだろうか。そう、やっぱりミハエルもまた悪人である。しかもマッドサイエンティスト系の悪人である。

 

 彼がこの街で引き起こしているのは、領民達の誘拐騒ぎ。そして誘拐した人間達を人体改造し、魔物達も自らの意のままに改造する、命を弄ぶ外道な行いである。

 

その産物の一つである、ミアに瓜二つのホムンクルス、アハト(表紙右上)。ミアの身体の一部を用いて創り出された、彼女と瓜二つの外見と同じような力を持つ、けれど魔力を一切持たない者。

 

一戦交え、倒れた彼女を無償で救い。魔王とは思えぬ人の好さ、そして自分にはない心の輝きにアハトの中に迷いが生じ。そして離反を決めたアハトと協力し事態に当たる事になるも、独断専行したアハトは危機に陥る。

 

 それを見てみぬふりをするジークか。無論そんな訳もない。

 

「安心しろ、アハト。ここからは約束通り、俺が協力してやろう」

 

頼れる背中が駆け付けたのなら敗北はありえない。堕した天才如きが、最強である魔王様に勝てる訳もない。

 

前巻にも増して熱い勧善懲悪。それだけでなく、アイリスへのお仕置きを兼ねた性行為もあればユウナとブランの百合なシーンもあったり。

 

「次はしっかり、今回の反省を生かすんだな」

 

その先に、因果応報がきっちりと描かれるからこそ面白いのである。エロスがバトルを引き立てるからこそ、そこに面白さが存在する。それは明白であると言えるのではないか。

 

さて、次はいよいよ「勇者の試練」か。

 

前巻を楽しまれた読者様、やっぱり勧善懲悪が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:高嶺の花の今カノは、絶対元カノに負けたくないようです

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 さて、男は恋をフォルダごとにわけて保存していくものであり、女は恋を上書き保存していくものらしい。では、画面の前の読者の皆様にとって忘れられない恋はあるだろうか。永く引きずってしまった恋はあるだろうか。

 

「新しい彼女できたら、良かったら教えてね」

 

恋人が出来たら一途に尽くすタイプの主人公、薙人。彼は中学卒業と同時にとある少女と恋仲になり、だが高校入学と同時にフラれたという妙な経歴を持つ少年である。

 

「・・・・・・さっきのことがあったので、その・・・・・・駅まで、一緒に行ってもらえませんか」

 

だが、春は出会いの季節である。失恋の痛みが残る彼は、級友である一人の少女を先輩の強引な部活の勧誘から救い、一緒に帰った事を切っ掛けに心通わせ、惹かれ合っていく。

 

「朝谷さんは、千田くんの『元カノ』ということでいいんですよね」

 

「今からは私が千田くんとお付き合いをするので、私が『今カノ』です」

 

 そして、元カノと今カノが薙人を交え出会い、彼女の宣言により苛烈なヒロインレースは幕を開ける。『元カノ』の名は霧(表紙右)。高校生でありながらも芸能活動も頑張る、「のありん」の名で慕われる少女。『今カノ』の名は希(表紙左)。完璧な優等生であるが故に、少し周囲から距離を置かれる少女である。

 

ただの「友達」に戻ろうと一方的に告げて、彼の傷ついた心にも目を凝らさずに。けれど捨てた筈の心が痛む。希と接する薙人の顔を見るだけで、見せられなくなるほどに顔が歪む。

 

呼び方を変えてみたり、また守ってくれて心がときめいたり、ビデオ通話で思わず恥ずかしくなってしまったり。初めて知った気持ちと変化。それがどこまでも心地よくて。

 

「私、朝谷さんには絶対負けません」

 

だからこそ負けたくない。理解したい。彼女が何を思っていたのか。

 

「・・・・・・どの口で、って思うよね。こんなこと言ったら」

 

元カノの捨てれぬ気持ちを抱えながら、友達だからと仮面を使い分けて。甘える資格なんてないかもしれないのに、また彼の優しさに甘えてしまって。

 

 揺れて惑って、捨てきれぬ想いと忘れられぬ思いは時に近づいたり離れたり。そんな思いを自分の元へ引き寄せんとするかのように、今生まれた思いは強く声を上げる。

 

「・・・・・・かなわないな。初めて見たときから、鷹音さんのこと好きになれないと思った」

 

「・・・・・・実は、私もです」

 

だけど、嫌いになれない。同じ人を好きになったからこそ、手を差し伸べてしまう。けれど好きになれない。何故なら二人は恋敵だから。同じ相手を好きになった好敵手だから。

 

それぞれの心の揺らめきにこれでもかと焦点を当て、緻密なタッチで描き出す。だからこそこの作品は切実さと等身大の感情の熱さと甘さを持っている。故にこそこの作品は面白いのである。

 

緻密な心理描写が好きな読者の皆様、ラブコメ好きな読者の皆様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

高嶺の花の今カノは、絶対元カノに負けたくないようです (角川スニーカー文庫) | とーわ, Rosuuri |本 | 通販 | Amazon