読書感想:俺がピエロでなにが悪い!

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 ピエロと言えば? トロワ・バートン。そんな答えが咄嗟に出てきてしまう私はガンダム好きなのか、はたまたおっさんの域に踏み込んできているのか。それはともかく、ピエロと聞くと、どこぞの悪役が思い浮かばれる読者の方もおられるかもしれないが、どんな印象があるだろうか。彼等は笑顔の仮面の裏、自らの思いを隠しながらも自らの役割のままに踊る。自らの役を演じながらも、その振る舞いで笑いを届けているのである。

 

「―――イッツ、ショータイム!」

 

ショーの始まりの声が上がる時、ぼっちはピエロとして舞台に躍り出る。

 

将来の夢はストリートパフォーマー。そんな夢を抱きながら、月二回ホスピタル・クラウンとして子供達に芸を披露する少年、樹(表紙右)。彼には最近、一つの悩みがあった。

 

 それは、何故かいつも一人だけ。入院中の少女、茉莉だけが笑ってくれないという事。どうしたら笑ってもらえるのか。悩む彼はふと、ここにいるのは意外な者の顔を目にする。その名は愛莉(表紙左)。学校一のギャルと言われる関わり合いのないクラスメートである。

 

危うく身バレしそうになりながらも、何故彼女がここにいるのかと首を傾げ。それで済むかと思ったのも束の間、勉強も何もしない彼女をみかね、注意した事から彼女に勉強を教える事になってしまう。

 

 そして始まる二人の交流。その中、樹は知る事になる。愛莉というリア充グループにいるように見える少女の事情と内面を。彼女と茉莉の関係を。

 

必死に不安を押し殺し、周りに無関心を装って。茉莉は強がっていただけなのだ。必死に自分を強く見せようとしていただけなのだ。

 

 その姿に重なるのは、事故で両親を亡くし塞ぎ込んでいた過去の自分。だが、あの時の彼は一人ぼっちではなかった。彼の心に寄り添い、笑わそうとしてくれた一人の「ピエロ」がいた。

 

『人を励ますために僕がいるんダロウ? 一緒に戦わないト、ってネ』

 

容体急変により危機に陥る茉莉、塞ぎ込み樹に当たってしまう愛莉。そんな二人を前に今、立ち止まっていてどうする。今こそあの日のピエロのように、背を押してくれた言葉と共に。

 

「―――先生。ありがとうございました。おかげで目ぇ覚めました!」

 

 ならば今こそ笑いを。あの日のピエロに自分がなる。そして樹は舞台に上がる。イッツ、ショータイム。あの日くれた、今も尚自分の心に熱く燃える魔法の言葉と共に。

 

さりげない温かさと、己の夢に真っ直ぐだからこその熱さ。そんな二つの要素が並び立ち、まさに魔法の時間のように輝いているこの作品。気が付いた時には、この世界に引き込まれているかもしれない。

 

人の心の温かさが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

俺がピエロでなにが悪い! (講談社ラノベ文庫) | 白井 ムク, 塩かずのこ |本 | 通販 | Amazon