読書感想:悪役令嬢はしゃべりません 1.覚醒した天才少女と失われたはずの駒

 

 さて、この世の中には手話というものが存在する訳であるが、手話というものを使える方は果たして画面の前にどれだけおられるだろうか。いない、かもしれない。手話というのはそのような言葉が必要な方と関わらなければ覚える事もないものかもしれぬものであるため。

 

 

しかしこの作品においては、主人公であるリリアナ(表紙)には手話が必要であるかもしれない。何故なら彼女は言葉を失ってしまったから。何故そんな事になったのか。それは流行りの熱病に罹患してしまったから、という事にはなっている訳だ。

 

(気が付かれないように知識を身に付けて、魔術も習得したいところですわね)

 

とある異世界の大陸西部にある中規模国家、スベリグランディア王国。国王が代替わりにより弱体化した事で派閥争いが絶えぬこの国の、三台公爵家の一つである家の令嬢であるリリアナ。流行りの熱病に罹患し、声を失った事で。気付いたのはこの世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界で。リリアナは最後は王太子を呪い殺そうとして破滅した、悪役令嬢であったという事。

 

(あら、できてしまったわ)

 

そして最後は破滅、その前に派閥争いに組み込まれている以上、政敵やら刺客やらに命を狙われている状態。まずは生き残る為、力を得ることを目指し。書庫にあった本にて魔術を学んでみようとする中。無詠唱を図らずも身に付けた事で、この作品は本格的に幕を開ける。

 

『わたくし、声を取り戻したとしても、そのことは誰にも知られたくありませんの』

 

望むのは物語に巻き込まれない事、平穏に生きていく事。だからこそ今の、王太子の婚約者という状況は抜け出すべき立場。そして声を失っている今の現状は、ある意味望むべき状況。期間限定の護衛となった魔導師、ペトラとのかかわりの中でどうも呪いをかけられた、というらしい状況までは解き明かし、まずはその解呪を目指す中。リリアナは様々な人達と関わっていく。

 

最強と呼ばれる傭兵、ジルド。専属侍女のマリアンヌ。そして有名な暗殺一族であるオブシディアン。いずれもゲームの中では語られることのない、もしくは今の段階では関わりのない者達。その中、呪いをかけた者として疑いの線上に浮上するのは、まさかの人物。正に誰を信じていいかも分からない。だからこそ、誰の息もかかっていない、自分だけの派閥を作るしかない。

 

「あの娘からは目を離すな、内へ取り込め」

 

その目的のために暗躍を始め、魔物の襲撃を防いだり、更には人身売買組織を壊滅させた莉。生き残るための行いが、気が付かぬうちに派閥争いの中で注目を集め。彼女の知らぬ所で新たな潮流を生み出していくのだ。

 

意外とかなり骨太な世界観に圧倒される、かもしれぬこの作品。骨太めなファンタジーを読んでみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

悪役令嬢はしゃべりません 1.覚醒した天才少女と失われたはずの駒 (オーバーラップ文庫) | 由畝 啓, ミユキルリア |本 | 通販 | Amazon