読書感想:最強の吸血鬼は普通に生きたい1 異世界で王となった吸血鬼、現代に帰還する

 

 さて、異世界から現代社会に帰ってくる、所謂異世界帰還もの、というのは時々見かける訳であるが、異世界から帰ってきた場合、どういう事が起きるのか。ラノベを読まれている読者様であればご存じであろう。まず大体、異世界で得た力はそのままである。そして少し前のトレンドであれば、異世界で得た力を活かして現実世界でも無双したり、ラブコメしたり、という事が多かったであろう。

 

 

しかし現在のトレンドとしては、世の裏側、現実世界からすれば非日常、という事態に巻き込まれそこで活躍する、という事が多い。この作品もまた、そういう作品なのだ。

 

「―――状況を整理しよう」

 

魔王と呼ばれる悪しき存在を討伐するために異世界へ召喚され、二年の時を過ごして目的を達成、異世界から帰還した少年、竜彦(表紙中央)。だが、召喚当初の時間軸に帰ってきたけれど頭の中に響いてきたのは、「ノアナ」と名付けた脳内アナウンス、異世界で得たスキルの声。 整理してみれば、異世界で得たスキル、と異世界に転移した時に変質して得た吸血鬼、の身体はそのままだった。異世界で過ごす中で吸血鬼の特性は色々は克服したので日光の下でも活動は出来るが、物凄い眠気に襲われるという日常生活においては厄介なデバフが付くと判明し。

 

『―――時間です、マスター。太陽は完全に没しました』

 

一先ず日常生活に戻る中、ひょんな事から知り合ったのは学校の高嶺の花、陽華(表紙左)。その親友であるギャル、茉莉(表紙右)に何故か妖魔と呼ばれ惨殺されるも復活した後。夜が迫る時間に陽華が人狼としか見えぬ人間に絡まれているのを見つけ。太陽が没し取り戻した吸血鬼の力で助けに入り。後日陽華と茉莉から事情を聴くことに。

 

それは、陽華が霊能者と呼ばれる人種の名家の生まれであり、大神家と呼ばれる家の当主に懸想され狙われていると言う事。乗り掛かった舟で期間限定ながら護衛をする事になり。異世界から呼び出した眷属の一人、アラクネの瑠奈にも護衛に入って貰いながら。共に居ることに。

 

彼女達に付き合わされたり、この世界での戦闘力を見たり、学生生活でぶっ飛んだ身体能力を見せつけてしまったり。そんな中、大神家当主が陽華を差して言った「器」、という言葉が気になりつつも、心の傷、かつて異世界で人間の集まりに馴染めず、孤独で迫害された心の傷も、癒える気配が。

 

「明月君の事を化け物だなんて―――もう言わないで」

 

「私は明月君を大切に思ってるよ」

 

陽華に肯定され、受け止められ。抱いていく恋の感情。だが状況は、茉莉の裏切りにより一気に動き出す。戻って来た時に得ていた一カ月に一度復活できるスキルで死に戻るが、大神家当主の目的は為ってしまい。陽華の身体を器にし顕現した「アマテラス」を名乗る神が、人類滅亡の為に動き出す。

 

「今からお前に食らいつくのは、矮小な吸血鬼じゃない―――強大な竜だ」

 

だけど、退く理由はない。太陽の神が相手になろうとも、目的は只一つ。取り戻すために開放するのは、竜と変じる禁忌の力。茉莉の捨て身の援護射撃も加え、何とか陽華を取り戻し。望んだ、騒がしい普通へと舞い戻るのだ。

 

迫害されても求め続けたその手が取られる、芯が通って心躍る面白さがあるこの作品。帰還系作品の真っ直ぐな部分を楽しんでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

 

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