読書感想:毎晩ちゅーしてデレる吸血鬼のお姫様

 

 さて、吸血鬼と言えば誇り高き紳士であった、あの黒のランサーを思い浮かべる方はどれだけおられるだろうか。というのはともかく、吸血鬼なヒロインと言えば様々な魅力を持ったヒロイン達がいたであろう。眷属を作ることを嫌がるお嬢様、血が増える体質で鼻血を噴き出す体質の女の子、吸血行為を嫌がる女の子。様々なヒロインがいた訳であるが、この作品のヒロインであるテトラ(表紙)はどんなヒロインなのであろうか。

 

 

一年前、日本の近海に突如出現した大きな島、そこに住んでいたのは異世界の住人である吸血鬼。異世界での迫害から、島ごと逃げて来たと語る種族。一時は排除論に世論が傾きかけるも、身もふたもなく言ってしまえば、吸血鬼が種族的に美形であった為、受け入れ論が高まって。結局、日本と吸血鬼は共存の道を選び、少しずつ交流も始まっていた。

 

「テトラは敵じゃないですよ?」

 

そんな日本の片隅、自分と妹以外子供がいないようなド田舎から進学のために都会に出てきた少年、史郎。キラキラの青春を夢見るも、そもそも田舎の隔絶された環境で育ったが故に周囲と話が合わなくて。結果的に友達ゼロ人、ゴールデンウィークも一人。そんなある日たまたま通りかかった裏路地で、野良猫に話しかけようとしているテトラに出会い。野良猫とも仲良くしていたので、猫の言葉が分かると言う特技を生かし、テトラがその猫を拾う手助けをし。そこでテトラのお腹が鳴る音が聞こえたので、偶々傍にあったラブホテルで血を吸わせてみる事になる。

 

「もっとしろーの、ちょうだいです・・・・・・」

 

するとまぁ、何という事でしょう。テトラがデレデレになってしまったではありませんか。まるで酔っぱらうかのよう、史郎の血は今まで味わったどんな血よりも極上で。その虜になってしまったテトラに、従者であるメルが提案したのは、史郎をペットとして家に住ませて、いつでも血を飲めるようにするという事。メルの甘言にテトラと史郎がそれぞれ乗せられて。ペット兼同年代の友人として、テトラの住むお屋敷での同居生活が始まる。

 

連絡手段としてスマホを買いに行ったり、ゲームをして密着してしまったり。いつもの通りにテトラが史郎の血で酔っぱらってしまったり。 ちょっぴりお口の悪いツンデレな吸血鬼さんと過ごす日々の中、見えてくるものがある。それはテトラが今の性格、人間嫌いとなる前。どうも神隠しにより一時的に異世界転移していた史郎と関わり合いがあったらしい、という事。まるで運命的な再会、テトラの心がかき乱されて悶え転がる中。唐突に目覚めてしまう、テトラの吸血衝動。際限なく血を吸いたくなったテトラの暴走で、史郎が傷ついてしまい。自身の罪悪感に溺れるテトラは、史郎を突き放そうとする。

 

「いいよ。僕の血、吸ってくれても」

 

だけどそれでも、史郎は傍に居ようとする。傍に彼を求める、今いるのは夢ではない。テトラの心は満たされて、ようやく衝動も満たされて。二人の過去の関係性も明らかになった先、微笑ましいアクシデントによる告白と相なっていくのである。

 

ああ、やはり岩柄イズカ先生のラブコメは良いものである。今は未だ病気に効かないかもしれないが、いずれ遺伝子に直接届いて、万病に効くようになるかもしれない。そんな、心弾むような甘さに満ちているこの作品。文字通り蕩けるようなラブコメを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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